第2章 ✼藤✼
*。°○.:+**。°○.:+**。°○.:+**。°○.:+**。°○.:+*
顕如討伐の為の戦が終わった後、直ぐに信長から書状が来た。
——今はもう破棄しているが一時的に協定を結んで同盟関係になったのだから、人質などは必要無いだろう。結を安土城に返せ。
結の返還を求める二度目の手紙。
一度目の手紙は粉々に破って捨てたが、今回は結の気持ちに寄り添おう……そう思った。
「結。信長からお前の返還を求める書状が来ている」
「え…でも、謙信様は……」
俺の気持ちを察して口ごもる結。
「お前が思う事を俺に言えばいい」
俺の隣に座る結の髪を優しく撫でると、結は静かに口を開いた。
「謙信様の事は…愛しています。だけど安土の皆も私にとって凄く大切な存在です」
「……ああ、そうだな」
「だから、安土城に帰ってちゃんとお別れをしてから謙信様と暮らしたいです」
心配そうな瞳をしながらも、結は俺の目を見てきっぱり告げた。
——だから…もう少しだけ、安土城にいさせてくれませんか?
(自らの気持ちを言うのにさえこんなに躊躇させてしまっているのは、俺なのだな)
聞かなくても結ならそう言うだろうと思っていた。
本当は引き留めておきたい気持ちを抑え、平然に振る舞う。
「気持ちは分かった。安土にお前を返そう」
そう伝えると、結は少し驚いたような顔をした。
「本当に良いんですか?」
「お前の人生だ。好きに生きるといい」
「ありがとうございます、謙信様…」
ふわりと微笑んで俺の胸元に顔を寄せる結。
結と一日でも離れるのは耐えがたいが、俺はこの笑顔が何より大切だ。それが見れるというのなら、自分の欲望など心の隅にでも置いておこう。
「だがあまり待てんぞ。その準備が出来たらお前を迎えに行こう」
「はい……待っています」
静かな夜、口づけを交わした二人の影を月明かりが優しく照らした。
*。°○.:+**。°○.:+**。°○.:+**。°○.:+**。°○.:+*