第14章 ✼黒種草✼
「あ、待って……!」
走っていく男の子の腕を掴んだ。
……はずだったのだけど。
「結……?」
掴んでいたのは男の子の細い腕なんかじゃなくて。
私よりも逞しい男の人の腕。
「あ、謙信様……?」
「結、どうした。悪い夢でも見たか?」
体を抱き寄せる謙信様の背中に腕を回しながら、考えてみるけど……
「思い出せません……でも、悪い夢じゃなかった気がします。逆にいい夢だったような」
「そうか。ならいい」
夢って、そんなものだ。
起きたら忘れてしまう。
覚えていても、もう一度見たいと思って二度寝をしてみても見れなかったり。
────花の匂い
どこからともなくする花の匂い。
それは、覚えていた。
「謙信様、今日はお忙しいですか?」
「いや、今日は何も無いが……どこか行きたいところがあるのか?」
「はい」