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月下香の蛇

第1章 始まりと夜


校舎から出ていく生徒たちを見下ろす。
屋上には私一人。
今日は風が強い。
手に持つ本のページを風が捲っていく。

ざわざわとした人の話し声を後ろにページを進めていく。
気付けば、雑踏は無くなり
夕日が沈もうとしている。

「そろそろ帰ろう」

誰に言うでもなく一人、
その場から立ち上がって、足元の荷物を取る。
鞄の中に本を仕舞って
向かうは昇降口。

田舎だからか、時間帯が悪いのか、
道を歩く人は居なくて。
担任が「夕暮れ時に一人は危ない」と言っていた意味が
少しだけ分かる気がする。
言われたところで、それに従うつもりは無いけれど。

家に着けば、玄関には見慣れない黒い靴。
ひょっこりと顔を出した母親が
「にお客様よ」
と、居間を指さした。

「何でしょう?」
居間のソファに座っているスーツの男に
愛想の良い声を出せば
「私、こう云う者です」
名刺を一枚。
男の向かいに座って名刺を見れば
その男が政府の者であるという事が分かった。
「政府の方が、何か?」
「貴女には審神者になっていただきます」
「選択肢が無いんですね」
「これは、決定、なので」
男は無表情に決定という言葉を強調した。
平坦でつまらない言葉。
感情を押し殺しているつもりだろうけれど
心の中が、バレバレ、である。
「断ったらどうなるんです?」
「これは、決定事項、です」
私が断ろうとしている事に焦っている。
男の思考が手に取るように分かる。
「じゃあ、」
「、困らせちゃダメでしょう?
貴女の代わりにお母さんがOKしておいたから」
私の言葉を遮った母親は、既に政府の男に返答をしたのだと言った。
「そう」
「審神者になると、公務員よ?
安定してお給料も貰えるみたいだし、良い事よねぇ」
のんびりとした口調で話す母親に
政府の男は深々と頭を下げて
「失礼します」
一言告げて家から出ていった。
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