第14章 虚しさは拭えない
―――ガサッ
「……ヤレヤレ、合理的とは言い難い事しますね。わざわざ分身を使ってまで、我々に手を出すななんて言いに来たりして何事かと思いましたよ」
「グルルル……全くです」
瀬呂が居なくなって直ぐに後ろの茂みから葉にまみれた相澤とハウンドドッグが姿を表した。
一部の生徒が個々に二人を呼びにいっていたが、その道中にエクトプラズムの分身が待ったをかけにきたのだ。
珍しい事もあるもんだな。
それが相澤のココに辿り着くまでの感想であった。
「まぁ、心無しかスッキリした顔してますけどね、普通に過ごしてても考え込む時期ではありますから。
同級生との差、今の自分の実力、夢への険しさ。おまけに早期仮免試験……息もつまりますよ」
瀬呂の異変に気づいていないわけでは無かった。
以前、八百万が自信を失いかけていった時がいい例だ。
ただ瀬呂は無駄に繕うのが上手く、それでいてギリギリを保っていた。
もし自分が触る事で、ギリギリ収まったモノが溢れてしまったら。、担任である自分がどう支えてやれるのか。
誰一人同じ悩みを持つ生徒はいない。
教師とは悩ましい職業だと改めて相澤は思って仕方なかった。
「我モ授業ヲ受ケ持ッテイル身。
……ソレニ時間ヲ与エタ迄ノ事」
そう言ってエクトプラズムは自身の義足を見た。
『――敗北からの復活!!【不屈の男】ここにあり』
『雄英にダークヒーロー参戦!!』
相澤は昔のヒーローNEWSを思い出し、黙ってその光景を見つめた。
あれだけの敗北を経験し、その先に彼は進んだ。
一般人が思うより同じヒーローだからこそ分かる、戦場に戻る恐怖と葛藤。
その精神力には当時ヒーロー達の間でも話題となり、今でも語り継がれる1つの心の在り方であった。
「それは……贅沢な個人授業ですね」
「……協力ニ感謝スル」
「グルルルそろそろ止めヴヴヴッ」
しびれを切らしたハウンドドッグの唸り声。
そろそろ人の言葉が無くなりそうな5秒前。
「あーそうですね。通訳(ブラド)もいないことだし、そろそろ止めさせましょう」
そしてこの後イチを含め全員が、人語を忘れたハウンドドッグにこっぴどく叱られたのは言うまでもない……