第14章 虚しさは拭えない
「ねぇーえ、行こうってばー」
「うっせぇ、勝手に行けや」
「連れてってくれるって約束したじゃんかぁー」
「……したけど、してねぇ」
「なにそれー!!嘘つきは、えっと……針飲むんだよ!針!痛いよ!ねっ!だから行こう!」
「ばっ、んなもん痛くねぇわ!つーか、離れろや!」
「……なぁなぁ、何の騒ぎよあれ?」
まばらなサークル状に出来た人だかりの後部に腰掛ける瀬呂を見つけた上鳴は、買ったばかりのジュースをぐびりと飲みながら近づいた。
小さくて見えていなかったが、峰田もいたようだ。
「うーん、弟の我儘につき合わされそうになってる兄弟の微笑ましい図?」
上鳴の視線の先に居るのは荒れ狂う爆豪と、その腰にしがみつき、ただ引きずられるイチ。
その姿は駄々をこねる子供を連れた親子すら見えた。
「流石の我等が1Aの暴君もお手上げのようだなぁ、ありゃ」
元から何かと目立っていた爆豪はともかく、イチはイチで滞在期間中にすっかり校内で有名になっていた。
その証拠に2人の様子を観察している目は測定不可能。
少なくとも爆豪は初めは軽く抵抗していた。が、小さな怪獣相手ではそうもいかなくなり、それにプラスして昼休みの人が行き交うメイン校舎のド真ん中で行われている。
教室の窓から見る者もいれば、わざわざ足を止め観察する輩もいた。
「面白れーから、もう少し見てよーぜ」
「そーだけどよ、何かチラチラ爆豪の奴こっち見てねぇ?俺もう怖くてあっち見れねぇけどさ……」
瀬呂の提案に乗りたいのは山々だが、上鳴の言うとおり爆豪が無言の圧を3人に向かって放っているのは確かだ。
普段なら近くに居るであろう切島が居ないので、藁にもすがる思いか目敏い。
「いやいやいや、こんだけ観客が集まってちゃ俺等みたいなフツメンが邪魔しちゃ、むしろ駄目だろ?」
「でもよぉ……」
だとしても後々の事を考えるとどうしたものか……。
するとそんな上鳴の迷いを払拭すべく峰田が告げる。
「ちっちっちっ……爆豪に気を取られて周りが見えてなさすぎだぜぇ上鳴。見てみろよぉ、周りをよぉ。
2年と3年のお姉さま達もこぞって見に来てるんだぜぇ!」
嗚呼、友情とはこれいかに。