第5章 Chapter5【福引券で運試し】
「苗字、私と付き合って欲しい」
仕事中、石田さんから突如告げられたのは愛の告白だった。
「えっ……?」
「私は今まで苗字の良い上司であろうとしていたが、それも今日で終わりだ。私は真剣に苗字と交際したいと思っている」
いきなりすぎる展開に困惑する私をよそに、石田さんの口からは次々と愛の言葉が語られていく。
一体何故、こうなったのか。
それは私が一番知りたい。
「ま、待ってください。職場ですし、皆さん見てますし……」
「職場など関係ないっ!!それとも私を裏切る気か!!?」
「っ、裏切るとかそういうのではなくーー」
「その告白、待ったで御座るぁあああ!!」
「へっ!!?」
派手な音と共に、壊れてしまいそうな勢いで開かれたオフィスの扉。
そこに現れたのはなんと、幸村さんで……って、幸村さん!!?
「貴様は……」
「幸村さん!?何故ここにっ!?」
「某も名前殿を想う身!!この覚悟、石田殿に負けてはおらぬっ!!!!」
「想っ……あの、二人とも落ち着いてください!!」
「ほんと、旦那達ってばせっかちで嫌になっちゃうよねー」
睨み合う幸村さんと石田さん。
職場にも関わらず繰り広げられる修羅場にあたふたしていると、いつの間にか隣に現れた佐助さんがわざとらしく肩を竦めた。
「佐助さん!!一体何がーー」
「名前ちゃんは俺様のものだって言ってるでしょー?」
「ええっ!!?」
火に油を注ぐが如く放たれた佐助さんの言葉に、修羅場はますます悪化していく。
ーー流石にこれ以上は周りの目が痛い。
そう思い、三人を止めようと一歩前へ出ようとした……が、突然誰かにふわりと後ろから抱き寄せられてしまう。
「ーーーー散れ、この駒は我の物ぞ」
いや、あの……まさか……ねえ?
聞き覚えのある声に嫌な予感がしつつも、私はゆっくりと後ろへ振り返る。
その人物はーー
「名前ちゃん、起きてるー?」
「っ!!?」
コンコンと扉をノックする音で目を覚まし、がばっと勢いよくベッドから飛び起きる私。
辺りをぐるりと見渡して、自分の部屋であることを確認した私は……深く、ため息をついた。
なんておかしな夢を見てしまったのだろう、と。