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とうらぶ 短編たち

第1章 菫 陸奥守吉行


本丸の縁側に座ってぼーっと空を見上げる。
澄んだ青空にちょっと視線をずらせば大きな桜の木があって
桜の花は満開。

太い木の幹を一周するには何振りの短刀が必要か
そんな事を言い出したのは今剣で、
この本丸に居る短刀たちに声をかけていた。

桜の木の幹に抱き着くようにしながら隣の子と手を繋ぐ。
そうやって短刀だけで一周する予定だったけれど、
この本丸に居る短刀の数が少ないからか、あの桜の幹が太いからか、
岩融や一期一振なんかも最終的には参加して
ようやく桜の幹を抱きしめる事が出来たのだと、今剣を先頭に短刀たちが喜んでいた。
岩融も一期一振も仲間に入れたのが嬉しかったのか、
言葉にはしなかったもののホクホクと嬉しそうにしていたっけ。

「のう、主」
ぼんやりと数日前の微笑ましい出来事を思い出していた私に声をかけたのは陸奥守。
「なぁに?」
声のした方を向けばニコニコとした笑顔。
なにか良い事でもあったんだろう。

ストンと私の横に腰を下ろすと
「しょうえい物を見つけたちや」
相変わらずのニコニコ顔。

私が分からず首を傾げると
「ほれ」
と差し出してくれたのは菫の花。

「庭の隅で咲いてたちや。
綺麗じゃったから主に見せようと思って」

「可愛いね」
思わず顔が緩んでしまう。

陸奥守はこういう事が得意なのだ。
誰も気付かないような事にすぐ気が付く。
この菫だって、彼が見つけなければ知らない内に枯れていたかもしれない。

「押し花にしようかな。それで、栞にするの。どう?」
「ほりゃあしょうえい!」
「栞にしたら大事にするね。
使うたびに陸奥守を思い出すんだろうなあ…」

私がそう言えば、陸奥守は頬を少し染めながら、
「主はワシが照れるような事を平気でゆう…」
本当に小さな声でそう言ったのだった。

「菫の花言葉を知ってる?」
私が唐突に聞けば、
「知らん」
と陸奥守は首を傾げた。

「陸奥守は菫みたいだと思うよ」

私が答えを伝える気が無いと分かったのか、
私の言葉に少し眉間にシワを寄せつつ

「ふむ」
と、考え始めてしまった陸奥守。

そんな彼の頬にそっと唇を寄せて
私は菫の押し花造りのために自室へと戻るのだった。


縁側に残された彼の顔が真っ赤に染まっていた事なんて知らないまま。

『小さな幸せ』
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