第3章 惚れたら負け
「盛り上がってるところごめんだけど、その辺にして貰えると助かる」
「あ、すいません潔子先輩!不肖荻原ひまり、早速潔子先輩のお手伝いさせて頂きます!まず何すればいいすか?」
「んとね、とりあえずひまりちゃんはこっち」
みんな待ってるし、さっさとゲーム始めちゃいましょう、と三年のマネが荻原の手を引いてコートの反対側へ連れて行く。
荻原がすみません、とスコアボードの傍まで軽くダッシュしていくわけだけど、その姿がさながら天使なわけで。
三年のマネにスコアボードとコートを指して軽く説明を受けてるみたいで、それに対して頷いて時折はにかんで笑ったりもしていて。
なんだかボキャ貧になってしまった僕はとにかく彼女に対して可愛い、と言う単語しか出てこない。
三年のマネさんが荻原にそれとなく説明を終え、別の先輩が荻原へと近づいてきたところで試合開始の笛が再び鳴る。
別に動揺して、ってわけじゃないけどチラリと彼女の方を盗み見る。目が合った。
「頑張れ」
口パクだったが確かに彼女は僕に向かってそう呟いた。
親指でグッドサインを作って、彼女らしく軽薄なウィンク付きで。
うん、まあ。
そんな風に言われたらもう頑張らざるを得ないと言うか。
彼女の目の前で是が非でも王様を叩き潰してやりたいというか。
彼女から視線を逸らした後に山口から顔が赤いと指摘されたのだけは流石に大きなお世話だったが。
*
結果は、簡潔に言えば僕らの負け。
セットカウントは2-0だし、それ程悔しがるような内容でもないけれど。
彼女が見てたのに勝てなかったからって別にそれで悔しいとかは全然まったくホントにこれっぽっちも思ってないけど。
160そこそこのチビちゃん相手に追い詰められたことが過去の自分を追い落とす。
何年か前の烏野バレー部OBの..小さな巨人と日向が一瞬、たった一瞬だけどダブって見えてしまったから。
情けない話、30㎝身長が違う日向を脅威だと本気でビビった僕がいるのも事実だし。
30㎝下にいるはずの相手が気がついたら見上げるべき存在になって、気がついたら叶わない相手として認識してしまった。
それなのに日向は僕のことにはまったく気にせず、握手とかチームメイトの自覚とか暑苦しいこと言って構おうとしてきたり。
ホント、無駄に暑苦しいヤツってとことんイライラする。
あんなヤツに負けた、自分にも。
