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舞う羽は月に躍る《ハイキュー‼︎》

第9章 螺旋記憶ー幼馴染



僕の家から、バスと電車を使って30分と少し。県内には数少ない大病院まで向かう。


「面会の月島蛍です」

受付で名乗って、面会のバッジを付けて、5階の整形外科病棟までエレベーターで登る。
慌ただしそうに動く看護師さんやお医者さんに会釈しながら(ここ数週間で僕の顔は覚えられていて、話しかけられたりもする)歩いて、端っこの病室の前に着く。

ノックを2回。

「カナ、僕だけど。入るよ」

「……」

返事が無いのにも慣れた。ドアを引けば、いつも通りベッドで上体を起こしたカナがいた。
窓の外を眺めているせいで僕には気づいてないけれど(窓の外を見ていたり、本を読んでいたり、パソコンを使っていたり、理由こそ様々だけれど、カナが病室に入ってくる僕に気づくことはほとんどない)、ベッド脇の椅子を引いて座る。
鮮やかな緑を見ているのか、透き通った空を見ているのか、はたまた何も見てはいないのかわからないけれど、カナの視線が僕を見ないのはつまらないから、意識を引き戻すべく、取り敢えず、カナの黒髪を片手ですくい取った。
何の抵抗もなくサラリと指の間を落ちていくストレートの髪質に少し嫉妬して(僕は猫っ毛だ)、戯れにカナの髪を軽く引っ張れば、漸くカナの目が僕を捉えた。

「……蛍ちゃん」

とは言っても、視界に僕が入っているだけで、カナが僕を呼ぶ声はどこか夢見心地だ。


あれから、感情を遠くに置いてきてしまったかのように、カナは無表情のままだ。

多分、「光ちゃん」が関係しているんだと思う。

カナの大好きな従兄くん。
ずっと気が乗らなそうにしていた正月の帰省を、数年前から楽しみにするようになった。カナがバレーにはまったのも同時期。
とくれば、自ずと答えは出てくる。

僕の何処が「光ちゃん」に似ているのか知らないが、偶に寝ぼけると
「光ちゃん、ごめんね」とか言って縋ってきたりする。

寝ているときは、そうやって泣いたりもするのに、起きているときはやっぱり無表情で、顔立ちの良さも相まって精巧な人形のようだ、と思った自分にぞっとした。
あの日までのカナは、表情豊かだったのに。

僕を映さない瞳が行く当てなく彷徨っているのを見ながら、今日も僕はカナの病室に通うのだ。
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