第8章 螺旋記憶ー従兄妹
ガキん時の楽しい思い出は一瞬で色褪せて、でも俺は最強でいたかった。
羽奏が上がるトスで俺は最強になって、あの時からも、たくさんのセッターにトスを上げてもらって、良いセッターはたくさん居たけれど、羽奏以上に最強のトスはなくて、それでも俺はバレーを続けた。
ずっとずっと俺は、羽奏に「トス上げさせて」って、キラキラした瞳で言われるのが好きだったんだ。
羽奏は最年少で全日本入りしてるけれど、年齢が低すぎたから報道規制かかっていて、知名度は全然無い。
俺が、羽奏がバレーやってたこと忘れたら、羽奏がバレーしてた時間がなくなってしまう気がして、俺は太腿に残った薄い古傷を偶に撫でながら、最強でいることにした。
俺のために。
俺が、羽奏との繋がりをなくしたくなかったから。
そんな風にバレーを続けてきて、東京と宮城は遠いから、バレー以外で接点のない羽奏に会うことなんてないと思ってた。
それなのに、
ちゃんと歩けるようになったのか、とか、烏野でバレー部のマネージャーやってたのか、とか言いたいことはあるけれど、羽奏が楽しそうな顔してるなら、そんなのどうでもよかった。
最後に会った時のような、ぐちゃぐちゃな顔してないなら、それでよかったんだ。
プレー出来なくたって、俺と一緒にバレーして欲しかったとも思うけれど、烏野で伸び伸びやれてるならそれでいい。
烏野には、"蛍ちゃん"とやらもいるみたいだし。
そう思ってたのに、何で
何で、そんな辛そうな顔してるんだよ。
憧れるような、寂しそうな、泣き出しそうな。しかもそれを何重にも蓋をかけて、どっか深いところに無理矢理押し込めたような、そんな顔見たくなかったんだよ、俺は。
羽奏、お前は何を思ってる?