第11章 珪線石の足音
『な、なに』
「マシって具体的には!?どの程度!?」
『い、いやどれになるかはまだ分かんないし……私もその、上手くやれるかどうか』
「おまえは死ななくて済むようになるのか!!?」
『…………え、と……それは、多分無理。……ただ、ちょっとは中也さんに恩返し出来るかもって思って』
訳の分からない物言いに愕然としたが、こいつの言うその恩返しとやらはよほど本人的にはいい事だそうで、したかったことだったらしい。
「……しなくてもいいから、生きてられる方法は?」
『したくないんだよ、事情も少し変わったし。救える人は救いたいの』
「おまえは『私は無理、それは絶対。覚悟決めて一緒にいてくれるんでしょ』……止めようとするくらいは許せよ」
『…………うん、そう出来たらいいんだけどね』
するつもりが無いのだろう、事情が変わったと言っていたし。
鎖骨に吸い付いて痕をつけると、満更でもなさそうな顔を手で隠そうとするのでそれを阻む。
「何隠そうとしてんだよ」
『生々しい時に見られたくないし』
「綺麗な時は全部見せてくれよ」
『……“こういうの”って、見えなくなるかなぁ』
彼女が指したのは、変化していた時よりも多く、酷く見える傷痕たちのことだろう。
刃物による傷や、暴行を受けていたような痕跡が多く……普段服に隠されている場所に、見える。
「時間かけてゆっくり治してきゃいいんだよ、何とかしてやる」
『ごめんね、キズモノなのに「リーア」……騙してたし』
「自分のためだろ?それなら構わねえよ」
『……リアもね、一応…………一応、その……すき、な人……にはね、気にするの』
腕の中でこちらを見上げ、心配そうな瞳で引いた……?なんて聞かれてはキスしないわけにはいかなかった。
「おまえにそんなことした奴らにな?」
『いや、そっちじゃなくて「こんな女の子にどんだけのことすりゃこんな傷が遺るんだよ、余計に大事になったっつの」……そっか』
そうだ、ともう一度断言して撫でていると、少し尾鰭を揺らしているような。
『じゃあその、温泉……とか、一緒に入るの嫌じゃない?』
「むしろご褒美の間違いだな?こんな世界一いい女にお供させてもらえるんだから」
『大袈裟』
「そういうの、隠さなくていいからな」
『…………じゃあ、その……ま、前髪……切ってみてもいいかなあ?』