第1章 第1章
そんな様子で順番に自己紹介が続くと、最後の子。新入社員の中で唯一の女性だった。俺のデスクからは幾分離れていたので顔はよく見えなかった
が、すらっとしていてスタイルがいいことは遠目にも分かった。
『初めまして。経理部配属になりました苗字と申します。精一杯頑張りますので、ご鞭撻のほどよろしくお願い致します。』
彼女が頭を下げると、前の方にいた男達がざわつくのが耳に入った。
あの女の子がどうかしたのか…?
部長「ということで、お前ら先輩としてなんでも教えてやれよ。以上だ。」
と、部長が告げると、皆好き好きに仕事に戻っていった。
なんだ、挨拶だけか。と俺もデスクに向かい途中のデータ入力を再開しようとすると、
部長「ああそうだ、木下、緒方、丹野と──茅ヶ崎。 前に来い」
名指しで部長に呼び出された。
何かやらかしたか思い当たる節を探すも見当たらない。しかし、呼び出されたほかの同僚は俺と同じタイミングで入社した同期だ。ますます分からない。一体なんの要件なんだ…。
俺は頭の中を?で覆いながらも部長のもとへ向かう。
部長「この4人の教育係を担当してくれるな」
至「……え?」
教育係?俺が?ちょっと待ってください──、と抵抗する間も与えられずに同期たちに新人を宛がっていく部長。
OJTの担当ってどう考えてもかなり時間取られるよな。くそ、今年はなんで俺なんだよ。まだ2年目なんですけど。
急に告げられた子守命令に、大切なゲーム時間の危機を感じて内心めちゃくちゃ焦っている俺を無視するように、新人が部長に背中を押されて立ちはだかった。
くそ、と内心ぼやきながら諦念の心中で新人を見やる。
そこに居たのは、さっきの男どものざわつきに思わず納得してしまう美人が立っていた。
いや、確かにかわいい顔をしているかも知れないけど、新人の世話、しかもよりによって女だし。
食い気味に辞退させて頂きたい気持ちをなんとか堪え、し慣れた営業スマイルで挨拶を交わす。
至「はじめまして。営業担当の茅ヶ崎至です。OJTの担当は初めてだから、一緒に頑張ろうね。よろしく」
『はじめまして、苗字名前と申します。ご指導よろしくお願いいたします』
苗字さんが頭を下げると、耳にかけていた一束の髪がはらと滑った。