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【A3!】たるちほりっく【裏】

第1章 第1章


4月。
就活戦争を勝ち抜いた学生達が晴れて社会人の仲間入りを果たす、そんなおめでたい月。
俺──茅ヶ崎至──も、2年前の4月には同じ身だった。
有難いことに短大を出てからすぐに就職できた俺は、社会の荒波に揉まれることも、大きなミスをしでかして吊し上げられることも未だなかった。
こんなに順調でよいのか不安になるほどに。

そんなことを考えながら、PCに向かって顧客情報を入力していた時、

女性社員「茅ヶ崎さん、お疲れ様です~。よかったらこれ…」

背後から掛けられた声に振り向くと、マグカップを持った女性が立っていた。向こうは俺を知っているみたいだけど、俺はその子を知らなかった。
言われてみれば、いたなぁ…レベルの子。

至「うん、ありがとう。頂くよ」

キーボードから手を離し、マグカップを受け取ると、その子は足早に立ち去ってしまった。
俺は、入社したときから被り続けた猫を2年間貫き通していたおかげで、自分の上辺だけしか見ていない女性からこんな感じで好意を寄せられることがままあった。

至 (職場に何を期待してんだか)

呆れ半分で、コーヒーに口をつける。
独特の苦味と酸味に思わず眉間にシワを寄せてしまう。
得体の知れない他人から貰ったコーヒーって、なんでこんなに不味いんだ。自分で作り直したい…。

そんなことを考えながら止めていた手を動かそうとした時、上司──部長──の声がフロアに響いた。
午後の眠気と格闘していた同僚や、仕事の進捗を確認していた先輩も一斉に部長に振り返る。
しかし、そこに居たのは部長1人ではなく、3…4人か?見慣れない顔があった。

部長「悪いな、少し時間貰うぞ
今年入社した新入社員の4人だ。
この部署と、隣の経理部に配属の子達だ。ほら、挨拶」

部長に促された新入社員が順番に挨拶していく。
頑張って自己紹介してる感じ、青臭くて懐かしくてなぜだか少し照れる。

新入社員A「営業部に配属になりました、小野と申します!よろしくお願い致します!」

シワひとつないスーツに身を包んだウェットショートヘアの彼が深々と頭を下げると、一同で拍手が起きる。



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