第11章 死者の夢
「鍵閉めるから出ろ」
「僕の治療終わってないんだけど!?」
わめく声に反応して、がローの腕から下りた。
「コリン? どこか具合悪いの?」
「ちょっと……お腹痛くて」
「どうせ変なもの拾い食いしたんだろ」
ローは医者にあるまじき決めつけをした。
「人間は愚かだ。小さな予兆に気づきもしない」
チェシャ猫のミケの声に、は「棚の上?」ともふもふを探して両手を伸ばす。ベポがいないので常にもふもふ欠乏症だった。
「おいでおいで」
ミケは能面のような顔をしているマッド・ドクターを見て、そろそろと後退した。
「人間の嫉妬は怖い」
「キャプテン猫ちゃん睨んじゃダメ」
「睨んでない」
治療道具を取り出しただけだと注射器を見せると、ミケは「フギャー!!」と悲鳴を上げて透明になり、逃げていった。
「意気地のねぇ猫だな。患者用だってのに」
「ちゃん助けて!」
注射器を向けられたコリンが泣きつく。
「今日はアリスは一緒じゃないの?」
とたんにコリンは意気消沈した。
「ケンカしちゃった?」
ミケの代わりに撫でながらが尋ねる横で、どのタイミングで引っ剥がそうかとローが怖い顔をしている。
「キャプテン子供睨んじゃダメだよ」
「睨んでない」
サービスするだけだと、ローはコリンに打つ注射器をもう1本取り出した。泣きそうな顔でコリンはに訴えた。
「お父さんの仕事の都合で……アリスは他の島に引っ越しちゃうんだ」
それが腹痛の原因かと、ローは珍しく同情して注射器をしまった。
「寂しくなっちゃうね」
「引っ越しの準備で忙しいからって……全然会わせてくれないんだ」
しょんぼりとコリンは肩を落とす。
「一緒にお弁当食べる?」
ちらっとローを見て、コリンは賢く「やめとく」と返事した。
「お腹痛いんだもんね。ごめんね」
「ちゃんのおにぎりなら食べたいけど」
「俺のだ」
「キャプテン意地悪しないで」
「……一個なら分けてやってもいい」
「一生根に持たれそうだからやめとく。ちゃんまたね」
ほら薬、とローは患者に投げた。