第11章 死者の夢
漠然としていた不安が、現実になったように苦しい。気づけばローは走って家へと向かっていた。
「キャプテン! おかえりなさい」
「おかえり、ロー」
キッチンにいた二人は笑顔でローを出迎えた。
夕飯の支度中だったが嬉しそうに駆けてくる。いつもはそのまま『おかえりのハグ』をしてくれるのに、今日はブレーキをかけて直前で止まった。
「しまった。これじゃ抱きつけないね。今日はミートパイに挑戦してたの」
粉だらけの手を上げては笑った。構わず抱きしめて、ローは彼女のぬくもりを確かめる。
「キャプテン……?」
粉がつかないように両手を上げながら、は困惑した声を上げた。
「どうした、ロー?」
片足を引きずりながら、コラソンもキッチンのスツールから立ち上がってやってくる。と一緒に抱きしめて、「消えないでくれ」とローは懇願した。
「どこにも行かないで。夢でもいいんだ。もう失いたくない……っ」
困惑した様子だったものの、安心させるためには粉だらけの手でローの背中を叩いた。
「どこにも行かないよ」
「そばにいるよ、ロー。もうどこにも行かない」
それが叶えばどんなにいいだろう。ローはもう知っていた。
(破滅は来る。避けられない……)
二人をもう一度失う日は必ず来るのだ。遠くないうちに――。
110.新婚さん*
(ん……)
が快楽のまどろみから目を覚ますと、全身に心地いい重みとぬくもりがあった。
(まだ入ってる……)
思わず身じろぎすると、ローもが気づいたことに気づいたようだった。抱きしめる腕にいっそう力が入って、「愛してる」と囁かれる。
(ぅー……っ)
反則みたいな囁きに奥がうずくと、中で彼のものが固くなった。何回もしたのにまだ足りないのか、耳や首すじにキスが降る。
「どこにも行かないでくれ」
声はか細く、懇願するようだった。縋るようなキスに何も言えなくなって、は彼の背中に両手を回す。
「もう失いたくない……」
どんな顔をしているのか知りたくて顔に触れると、彼はの手に唇を寄せた。何かひどく不安がっているのは確かだった。