第11章 死者の夢
酒瓶の山に突っ込んだローは売られたケンカを迷いもなく買った。こういうのは久しぶりだが、嫌いじゃない。
「――ROOM!」
ローが広げた能力領域の中に、青虫は警戒もなく突っ込んできた。遠慮なくローは巨大な青虫を3つにぶった切った。
「ああん!? なんだこりゃ!! てめぇ人の体に何してくれてんだよ!!」
バラバラにされた青虫はうねうねと動いて怒り狂った。ハッキリ言って気持ち悪い。
子供の頃はカエルも解剖したローだが、虫はダメだった。鬼哭の刃を突きつけて命令する。
「その姿、悪魔の実だろ。人間に戻れ」
「チッ、変態野郎が」
毒づいて青虫は人間の姿になった。完全に予想外だった。口の悪い青虫の本性は若い女だったのだ。しかも全裸。
「服を着ろ!」
「てめぇが人の寝室に乱入して来たんだろうが!! 強姦魔かてめぇ!? 変態みたいな顔しやがって!」
散々な罵られ具合だった。変態を連呼されて地味に傷つく。今すぐ帰ってに変態じゃないと慰めてもらいたい。
服を投げてローは後ろを向いた。浮気しないと誓ったばかりなのにこれはどうなんだろう。全裸で凄まれてもまるで食指が動かないのだが、これでも浮気になるんだろうか。
(なりそうだな……)
どうかに知られることのないようローは祈った。
「失礼な野郎だぜ。女の裸みて絶望してやがる」
「新婚なんでね。誤解されるようなことは避けたい」
「何が誤解だ。てめぇが俺の寝室にいきなり入ってきたのは事実だろ」
「謝りゃいいのか?」
そもそも普通の女は洞窟で全裸で寝ない。たとえ青虫の姿でも――自分の常識が間違っているんだろうか?
「――で? 気持ちよく寝てた人間叩き起こして何の用だよ」
別に叩いて起こしたわけではないのだが。ため息を付いてローは体をくっつけ服を着た青虫(今は人間)を振り返った。
年は二十代中頃。ボサボサの金髪を短く刈ったスレンダーな女だった。アル中なのか、まだ中身の入っている酒瓶を探しては手当たりしだいにあおっている。
「なんでこんなところに住んでる?」
「悪いかよ。あんな気色の悪い街になんか近寄りたくもないね。……てめぇも能力者ってことは島の外の人間だろ。まだ街の異常さに気づいてないのか」