第11章 死者の夢
猫の言葉を鵜呑みにするのもバカバカしくて、ローは手を振った。
信じたくないが、それは何かこの不安に根ざすものだという気がした。そしてもうひとつ気づいたことがある。
(も気づいてる……)
自分と同じように、漠然とした不安をも感じている。思えば当たり前という気がした。彼女のほうが何倍もローより感覚が鋭い。
でもお互いにそれを口に出すことが出来ないのだ。言葉にすれば悪いことが現実になってしまうような気がして――。
(……城壁山脈近くの岩棚って言ったな)
一人で会いに行こうとローは決めていた。コラさんもも巻き込みたくない。自分の何に変えても守りたいのだ。今度こそ――。
109.青虫
(これが岩棚か……)
まさしく城壁のような、切り立った岩場の山脈をローは見上げた。
診療を早めに切り上げての夕方だった。鬼哭を持ち出したのも久々で、こんなに重かったかと戸惑う。武器を持ってきたのは念の為だったが、ずいぶんとなまってしまった自覚が芽生えてなんだか罰が悪い。
(もう少し運動するか。いざって時に動けねぇんじゃもコラさんも守れない……)
この街は平和で、筋トレよりをかまうほうが(かまってもらうほうが)何倍も楽しくて、油断していたのは事実だ。
「――スキャン」
人が暮らせそうな洞窟に目星をつけて、ローは能力領域を広げ、中を確かめて『青虫』を探した。
(あそこか……)
洞窟はいくつもあるが、生き物の気配があったのは一つだけ。人が登れる足場もないような高所に穿たれた岩穴に、ローは能力で自身を飛ばした。
「酒くせぇ……」
洞窟の中は空の酒瓶であふれていた。豪快ないびきの音が響いており、マットレス代わりに持ち込んだらしいキノコの傘で寝ている巨大な青虫が一匹。
(本当に虫だったのか……)
虫に直接触るのは気が引けて、ローは鬼哭の先で巨大な青虫をつついた。
「起きろ」
「んあぁ?」
目を開けた瞬間、青虫はローを攻撃してきた。バネのように体がしなり、大砲のような頭突きがローをふっ飛ばす。
「なんだ、てめぇ。人間の分際で俺様の眠りを邪魔してんじゃねぇよ」
「虫が言うじゃねぇか……っ」