第11章 死者の夢
108.新婚生活
「コラさんおはよう」
「おはようちゃん、ロー」
庭に面した縁側で鳥にエサをやっていたコラソンは、二階から下りてきた二人を笑って出迎えた。
「すぐごはん作るね」
迷いのない足どりではぱたぱたとキッチンに駆けていく。引っ越してきた当初はあちこちぶつかっていたが、今ではすっかり慣れたものだ。
診療所にほど近い街なかの一軒家は、ローが借りた貸家だった。古いがよく手入れされていて、中くらいの庭がある。高いトネリコの木が生えた庭をコラソンもも気に入っていて、鳥の巣箱を作ったり、ガーデニングしたり、楽しんでいるようだ。
「、火に気をつけろよ」
「大丈夫だよー、ドジっ子じゃないもん」
「はぅ!」
自分のことかとコラソンが大げさに傷ついた真似をする。はじめはとコラソンの二人で料理係を担当しようとしたのだが、恩人が手を出すとキッチンが壊滅するので、コラソンは味見係に落ち着いた。
「コラさん味見して」
味噌汁を持ってきてがうかがいを立てる。
独創性が高すぎるあまり、『チョコレート味のカレー』とか『タピオカミルクティーチャーハン』とか即死級の料理の腕を奮って、引っ越し当初、は二人を胃薬漬けにした。
「うん、大丈夫。おいしいよ」
「さっぱりするようにレモン汁入れようと思うんだけど、どうかな?」
(味噌汁にレモン汁……)
「味噌汁はオーソドックスにいこう、ちゃん。これがおふくろの味だ!」
「わかった!」
味見係の功績は計り知れなかった。あとがアイディアがボツになっても引きずらない性格で良かった。
とりあえず今日も胃薬は回避できそうで、ほっとしながらローは新聞を開く。毎日代わり映えのしないニュースばかりだった。
「なにかおもしろい記事載ってる?」
「いいや」
新聞をたたんで、ローは食卓の場所を空けた。
お手製の小さなたくさんのおにぎりと、焼き魚と、近所の住人からもらった漬物と(は年寄りにやたら受けがいい)、レタスかキャベツのサラダ、それに味噌汁。朝はこれが定番だった。