第11章 死者の夢
「キャプテン、痛いよ……」
か細い声に訴えられて、慌てて放す。懐かしい琥珀色の瞳が至近にあった。
ひんやりとしたの両手が、ローの顔を包み込む。表情を探るように頬をなでる手が心地良い。
「キャプテン、変わらないね」
泣きそうな目では笑った。
「いい匂い……」
朝起きてシャワーを浴びたら、最初に香水を付ける。に見つけてもらうための目印。彼女がいなくなっても習慣は続いて、もうじき使い切ってしまう瓶を見ながら無意味だと思ったり、でも辞めてしまったらのことを忘れるみたいだと思ったり――。
諦めなくて良かったと心から思った。何をやったってもう届くことはないと、絶望に負けずに良かった。こんな奇跡を信じてたわけじゃないが、瓶を見るたびのことを考えた日々が、こうして意味になった。
言葉が出なかった。言いたいことは山ほどあるのに、胸がつかえて何も出てこない。何か言って、とに求められ、絞り出した言葉は無意識だった。
「……好きだ」
最後に言えなかった言葉。本当はもう言う資格もないのかもしれない。でもこんな奇跡が起こるなら、それさえ許されたっていいんじゃないかと。
そんなものはただの言い訳で、を前にするとただあふれて止まらなかったのだ。クルーが全員見ていたがかまわず、ローは彼女を抱きしめる。
「もう置いて行かないでくれ。がいないと生きていけない。愛してる……」
ぅーと小さくはうめいた。
「キャプテン誰にでもそういうこと言うもん」
「言わない」
「女みたらしだし」
「心を入れ替えて……あんこになればいいのか? 大福?」
「大福はベポだもん」
「え。俺、和菓子じゃないよ?」
おかしなやりとりに笑ってしまった。つられたようにも笑って、ローは彼女を抱き上げた。
「ダメって言うなら俺はストーカー確定だな」
「そ、それ犯罪だよ」
「捕縛に来たやつは全員バラす。良かったな1億5千万の賞金首で」
「よくない!」
は怒ったがローは笑った。彼女がいてくれるだけで楽しくて仕方なかった。
「あれが噂のちゃん? 話通り可愛いね!」