第11章 死者の夢
――そんなことができる訳なかった。
102.雑なプロポーズ
翌日は二日酔いで頭がぐわんぐわんした。コラさんに笑われ、差し出された水の入ったコップを、飲むのではなく額に付けて冷やす。
「……コラさん、俺いったん船に戻るよ。着替えとってこなきゃいけないし、船もクルーも放置しちまってるから。ついでに何か、食べるもの買ってくる。何か食いたいものある?」
「梅干し」
味を想像して酸っぱい顔をしたローに、コラソンは笑った。
「まだ嫌いなのか? 子供だなぁ」
「数日前にパンを食わないと大きくなれないって子供に言われたけどな。コラさんパン嫌いは治ったわけ?」
憮然とやり返すと、コラソンは「はぅ!」と傷ついた顔をした。それに笑って、
「船の梅干し、全部持ってくるよ。載せるなって言ってるのに聞かねぇ奴がいるんだ」
ローは明るく言ってコラソンの家を後にした。
(一人になんかさせられない……)
港への道をたどりながら、ローの中には確固たる思いがあった。今のコラさんには一緒に住んで世話をする人間が必要だ。
彼がなんて言おうと、あんな状態の恩人を置いて海に出るなんて出来るわけがなかった。
(なんだ……?)
港に戻ると、クルーが勢揃いしていた。何かを取り囲んで大騒ぎしている。
港には見慣れぬ船が停まっていた。朱塗りの豪奢な木造船。ヘイアン国で似たような船を見たなと、漠然と思った。
(マリオン……?)
取り囲まれている輪の中に、ヘイアン国で別れたはずのクルーがいてローは驚いた。丸メガネの学者、ハンゾーの姿もある。
何かの予感に、ドクンと心臓が大きく鼓動を打った。
ベポが泣きながら誰かに抱きついている。大きなシロクマに潰されそうになっているのは、小柄な少女。
見間違うはずのない美しいストロベリーブロンドに、ローは鬼哭を取り落とした。
「……」
船長に気づいて、クルーたちがわっと振り返る。
「キャプテーン!!」
号泣するあまり鼻水たらして駆け寄ってきたマリオンを思わず避けて、ローはを抱きしめた。
(なんで……っ)
こんな都合のいいことあるわけない。でもぬくもりは本物で、かき抱くようにローは両腕に力をこめた。少しでも力を抜いてしまったら、消えてしまうような気がして。