第10章 お別れ
散歩に向かったローを呼び止め、引っ張っていったのはサロン・キティの一番人気ジルだった。ローの様子がおかしいことに気づいて何かと世話をしてくれているようだが、何一つ、いい成果は出ていない。
それでも船長は鬱陶しそうにしながらも、腕を引かれるに任せてサロン・キティの店内へと入っていった。
「……意外。キャプテンって女の人に主導権に握られるの嫌いかと思ってた」
甲板からそのやりとりを眺め、ぽつりとウニはつぶやいた。
「嫌いだよ」
そう答えたペンギンが能面みたいな顔をしているのに気づいて、ウニは「なに?」と聞き返す。
「……他の女と寝ると、が怒って文句言いに来るらしい」
「うわぁ……」
最低な理由にウニはドン引きした。それで女の人が途切れないのもすごいが、あの船長がまさかそんなにアホだと思わなかった。
「が本気で怒ったら、多分キャプテン見捨てられるよ」
「そうなったら、もっと最低なこと始めそうだな……」
もっと最低なことって何だろう。理由もなくベポを丸刈りとか? が怒り狂いそうだと、自分で考えてウニは嘆息した。
が夢で会いに来るという話をすんなり信じられるのは、同じ経験がウニにもペンギンにもあるからだった。
内容はほとんど覚えていないが、彼女は元気そうで、それにほっとして目を覚ます。毎日ではないが、時たまそんなことがあって、そんな日は一日、なんだかちょっと幸福な気持ちでいられる。
でもそのことを今の船長の前では口に出せなかった。薬を飲んでまで、彼は夢でに会うことに固執している。
「はきっと、キャプテンに元気でいて欲しいと思ってるのに……」
「……多分それは、キャプテンもわかってるよ。でもどうにもならないんだろ」
「……何か、出来ることあるかな?」
首を振って、ペンギンは「時間が解決してくれるのを待つしかない」とつぶやいた。
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