第10章 お別れ
95.嘆願
「たのもー!!」
船の外から響いてくる大声に、ローは目を覚ました。
時計を見ると二時間ほどしか寝ていない。だが寝不足よりも、「の夢を見ていたのに」という怒りのほうが大きくて、鬼哭を掴むとローはずかずかと甲板に出た。
「うるせぇ!!」
まだ騒ぎ続けていた海賊の一団を、ローは問答無用で切り刻んだ。
「何の用だ!?」
「そ、それ……バラバラにする前に聞いてくれませんかね」
首だけになった海賊が哀れに懇願した。
言われてローも順番を間違えたことに気づいたが、謝る気にはなれなかった。せっかくの夢を見ていたのに叩き起こされたのだ。要件を聞く前にバラバラにするのも仕方ないと思う。
「船長を返してもらえませんか……」
どうやら彼らはロートレックの部下らしかった。
頭と胴が逆さまにくっついた海賊が、ぺこぺこしながら荷車に積まれた財宝を差し出してくる。
「う、うちの宝を全部差し上げますんで……」
「え、マジで!?」
様子を見に来たシャチが、山積みの財宝に飛びついた。
「いいですよね、キャプテン!? どうせ外に放り出してたんだし」
「おい……金に釣られんな」
「どうせもう使わないでしょ」
遊び終わった遊具を譲るみたいなノリでハートの海賊団の面々は語りだした。やっぱりこいつらまともじゃねぇと、ロートレックの部下たちは戦慄した。
「船長を返してください!」
「あの人がいればこんな宝、すぐにまた集められる!」
「俺たちには船長が必要なんだ!」
バラバラにされた海賊たちの大合唱は非常にうるさかった。このままじゃ寝られそうになくて、ローは「わかった好きにしろ」と応じる。
「その辺に転がってるだろ」
体のパーツをしっちゃかめっちゃかにつなげたクルーたちはいそいそと船長を回収した。しかし愛する船長をつなぎ合わせようとして、彼らは固まった。
「あの……パーツ足りんないんですが」
「知るか。誰か持っていったんだろ」
具体的には頭と右腕と左足がなかった。誰かに拷問されているのか、ロートレックの残りのパーツはのたうち回って何やら苦しんでいる。