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白夜に飛ぶ鳥【ONE PIECE】

第10章 お別れ



94.伝説の島



 浴室の小さな窓からは朝の木漏れ日が差し込んでいた。徹夜してしまって体もだるいが、ここで休む気にもなれず、ローは船に戻ろうと考えていた。

「……シャワー空いたぞ」

 髪を拭きながら部屋に戻ると、カナリアはベッドでぼんやりと、こぶし大のガラス玉を見つめていた。

「……エターナルポースか?」

 指針の浮いたガラス玉は、木枠こそないけれど、間違いなくグランドラインの命綱だった。

「……巡礼の目的地でした」

 これだけはどうしても失いたくなくて、海賊に襲われた時とっさに隠したのだとカナリアは語った。

「伝説の島なんです。そこでは死者に会えると」
「……死者に?」

 うさんくさい話に眉根を寄せたローに、カナリアは微笑む。

「真偽の程はわかりません。でも500年前から確かに、そう呼ばれる島はあると。このエターナルポースを手に入れたのは偶然でしたが、行って確かめる価値はあると……志願者を募って大教会は船を出すことにしたんです。私は、亡くしたばかりの母にどうしても会いたかった」

 その船をロートレックは襲ったのか。海賊であろうと、教会の船に手を出すのはご法度だ。人知を超えたこの海では特に、最後の頼みは神だけだからだ。
 武装もしていない船を襲うことは海賊としても汚名になる。だが人身売買が目的のロートレックには、格好の獲物だったのだろう。

 カナリアはそのエターナルポースをローに差し出した。

「どうぞ。差し上げます」
「なんで俺に――」
「他にお礼として渡せるものが何もないから。それに……会いたい方がいらっしゃるんでしょう?」

 驚くローにカナリアは微笑する。

「何度か、名前を呼んでいましたよ」

 思わずローは口を覆った。それは情事で最大のルール違反だ。

「いいんです。無理を言ったのは私だから。……シャワー、浴びてきますね」

 浴室へ消えたカナリアを見送り、ローは残されたエターナルポースを見つめた。

(死者に会える……?)

 医者としてそんな事象を認めるわけにはいかなかった。大体埋葬された相手に、一体どうやって会うというのだろう。
 眉唾ものだと思うのに、グランドラインならばと否定しきれないのも事実だった。
 大事なものをくれたカナリアの心を踏みにじりたくないのもあり、ローはエターナルポースを持って部屋を出る。
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