第10章 お別れ
「町医者するには気が短いんだよ」
「ウソばっかり。私が知るどんな男の人より、あなたは優しいわ」
私の相手も忘れないでね、とローの頬にキスして、ジルは扉を閉めた。
◇◆◇
『キャプテンが一番好き。キャプテンが辛そうにしてると、自分が辛いより100倍辛い。笑ってくれると100倍うれしい。……大好きなの』
もうあの笑顔を見ることは二度とない。
そう思うと悲しくて苦しくて、胸が潰れそうだった。コラさんの死を目の当たりにしたときは、子供だったのもあって、何も考えずただ号泣した。
でも年をとって泣き方を忘れてしまったのか、を失ったのに一滴の涙も出なくて、そうするともう、この感情をどう吐き出せばいいのかわからなかった。
「…………っ」
カナリアを押し倒して抱きながら、思ったより余裕のない自分に気づいた。
彼女に自分の感情を吐き出すことになると気づいたが、それはカナリアも同じだったようで、すすり泣きながらローにしがみつく。
(そうか……)
これは慰めではなかった。互いに希望を失った者同士の傷の舐め合い。を抱くときのような幸福感とは程遠く、うつろでむなしく、相手の人格すら見ていない。
でもそれが必要なときも辛い人生の中ではあるから――。
泣きじゃくるカナリアを、朝まで何度も抱いた。失ってしまった彼女のことを考えながら。