【テニプリ】Merry-Go-Round【短編集】
第2章 【千石】すべてせせらと笑ってやれ
あの頃って自由だった。義務と言う名の箱庭世界に閉じ込められて敷かれたレール通りに歩いていれば、まず間違えることはない。ただ、示されてはいない浮わついた話のこととなるとそうはいかない。
まず、周りが見えなくなる。次に他人が気がかりになって精神が落ち着かなくなる。最後にうまい塩梅でバランスをとれなくなって崩れてしまう。
当時2人はお似合いだねなんて言ってた周りは裏でコソコソと「彼、相当キテたらしいよ」「あの子束縛強そうだもんね……」なんて見下して、嘲笑って、それを隠せてるなんて思い込みながら話しかけてくる。端から見ていても到底褒められた行為とは言えない。
だから私は。
「ユカ、それひと口チョーダイ」
「はい」
そんなやつらをもっとバカにしたくてうまくやれる方法でしか動かない。それはアイツも同じはず。「2人って本当に仲良いよね」「付き合っちゃえばいいのに~」なんて周りの本音5%の言葉を苦笑いとともにこう返す。
「「ないない。コイツはただの腐れ縁だから」」
嘘はついてない。私とキヨ――千石清純は本当に腐れ縁である。だが、それをわざわざ公言するメリットがあるというのだろうか。終わりが来たときにあの子たちの二の舞いなるなんてのはごめんだし、何より私たちは他人からの余計な干渉を受けたくない。だから繋いだ掌を机の下にそっと隠すように、今すぐにでも「この人は私の彼氏です」とドヤ顔で言ってやりたい気持ちを笑顔で隠すように見えない時間を積み上げ続ける。
そうやって生きていても、まぁ、過ごし方がお互いに違うから色々とズレや歪みは出てくるわけで。想定していた終わりにも順当に? 迎えてお互いが今度はレールはないけど定められた枠の中でもがいてみる世界に、それぞれ違うテリトリーで突っ込んでいった。
それからしばらくの間のキヨのことなんて全然知らなかった。