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Dearest【降谷零夢】

第3章 近づく距離


ドン

「あら、ごめんなさいねぇ。」
「っ大丈夫か!?」
『……カートで人を押し退けて割り込みですか。良いご身分ですね。』
「割り込み?私の方が一歩早かっただけで割り込みじゃないわ。」
『そうですか、なら私達はあちらに行きますね。』

そう言って、葉月さんは俺の背中を押して空いている隣のレジへ並んだ。

「ちょっ……そっち私が行こうとしてたのよ!」
『先程、貴女言ってましたよね?自分の方が一歩早かっただけで割り込みじゃないって。それってつまり此方じゃなくて其方のレジに並ぶつもりだったんですよね?なら私達が此方に移動しても何も問題ないはずです。あぁ、それともご自身が優先されないと気が済まないのですか?子供まで押し退けて売り場で好き勝手して大人として恥ずかしい。他の方のご迷惑となるのでそこで大人しく並んで待ってください。』

正にマシンガントーク。
無表情な上に感情の篭らない声で言い切った彼女に相手も怖気ついたのか何も言い返して来なかった。
無事に会計を済ませてマンションまで歩く。

「……あの時怒ってた?」
『怒るというか、ああいう人って言い返されると弱いタイプだと思ったから……』
「あんなに言うと思ってなかったけどな。」
『……あの人に押された子供見てたらつい……。』

確かに子供が押されて泣きそうになっていたのを俺も見ていた。
その子供の親が何故かあのオバさんに謝ってたのも。

「やっぱり少しは怒ってたんじゃないか。」
『……そう、なのかも……』
「葉月さんの言うように怒るのはエネルギー使うよな。でも、そうやって誰かの為に怒るのは必要な事だと俺は思うよ。」
『……うん。』
「笑ったり出来るんだからもっと感情表に出しても良いんじゃないか?」
『……私、笑ってた?』
「この前のショッピングモールでね。」
『…………まだ笑えるんだ。』

ポツリと呟いた言葉に俺はずっと気になっていた事を聞いた。

「……踏み込み過ぎかも知れないけど、過去に何かあったのか?感情を無くすってよっぽどの事がないと……。」
『……降谷君。』

俺の言葉を遮って葉月さんは俺を呼んだ。
その瞳は少なからず怯えた様に見えた。

『貴方は帰る事だけを気にしていて。きっと聞いてしまったら後悔してしまうよ。』
「……葉月さん……?」
『私は大丈夫だから。』




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