第2章 2部
「そっか。…ふぁあ…昨晩はよく飲んだね。じゃあ朝ご飯にしようか。それともお茶淹れ…」
わざとらしく欠伸をして、ギンブレーの話をはぐらかそうとしているのが分かったのだろう。キッチンに移動しようとしていた私の腕をカミナが掴んだ。
「そんなのいいから、俺の話を聞け」
「…話?」
「ああ」
カミナの真剣な声に動きが止まる。
思わず彼を見上げると、声音同様に真剣な目をしたカミナが私を見ていた。
「昨日言い掛けた事を言うぜ」
「…何?」
「俺はお前をもう一度誘いに来たんだ」
カミナの目は真っ直ぐ私を見抜いていた。
その目の色に、あの時が鮮やかに思い出された。
カミナが旅立ったあの夜、そのカミナに旅に誘われた。
それを私は断った。
その時の私は子供だったから。カミナに付いていくなんて出来なかったから。
あの時よりは多少成長できたかなとは思う。今の私ならカミナに付いて行く事が出来るようになったかもしれない。
そうだ、今なら。
彼と一緒に、この世界中を見て回れるのかも。
「――カミナ、ごめん」
思考とは別の、反射的に出た自分の言葉に自分で驚いた。
「…私、行けない」
続けて出た言葉が胸に落ちる。
そう、前回は行く資格が無くて行けなかった。
今回は他にやる事が出来て行けない。
「仕事があるの。とっても大切な」
ギンブレーが、ロシウが私に任せてくれようとしている仕事が。
「ああ。分かってるよ」
不意に視線を緩ませ、カミナが笑った。
「やっぱりそう言うんじゃねェかと思ってた」
悲しそうでも寂しそうでも無い。知ってた、と言外に伝わる笑顔。
「カミナ、あの、私」
カミナと一緒に行きたくない訳じゃない、むしろずっと一緒に居たいと伝えたくて言いよどむ。うまく言葉に出来ない私の頭をカミナが撫でた。
「分かってるって言っただろうが。それがお前のやるべき事なんだろ?」
「…うん」
この仕事は多分きっと、私がやる事。
他にも誰か適役者が居るのかもしれないけれど、私の信頼する人が、私を信じて任せてくれる仕事という事が、どうしようもなく嬉しい。
口を結んで頷く私に満足そうに笑い、カミナもまた言葉を続けた。
「俺は俺で、やるべき事を探してる。それはきっとお前を連れて行く事じゃねェんだろう」
「…そうなのかな」