第1章 1部
それはそうだろう。ヨーコはシモン同様、テッペリン戦の英雄だ。ロシウが側に置きたい気持ちも分かる。
「私そういうの全っ然向いてないのよねー…」
ぼやくヨーコがキタンに重なり、は思わず笑みを浮かべた。
「…ちょっと何で笑ってるのよ」
私の方に視線を向け唇を尖らす。
「ううん。キタンも同じ事言ってたな、って」
「そう…」
苦笑いしてからヨーコは再び視線を落とした。
「政治とか議会とか全然向いてない。それよりも私にしか出来ない事をやりたい」
視線を下に向けながら呟くヨーコの目が強く光った。
「あいつがやりたかった事。私なりに考えたんだ」
「あいつって…」
こくりとヨーコが頷く。『あいつ』。それは聞かなくても分かっていた。
「子供達がお日様の下で笑って過ごせるようにしたいって、あいつは言ってた」
「…うん」
そっとカミナの方を伺う。
とっくに昼食を食べ終わっていた彼は、ヨーコが『あいつ』と言った時にぴくりと反応したが声は出さず、いつもの腕組みの格好で私達の話を聞いている。
以前、ヨーコから聞いた事があった。
カミナは『地下に閉じ込められていた子供達が安心して地上で暮らせるようにしたい』と言っていた事を。カミナは途中で逝ってしまったが、今の地上はカミナの願っていた世界に近づいている。カミナにはどう見えているのだろう。
「戦いが終わって町が出来て、皆が平和に暮らせるようになって…。あいつの願いは叶ったのかなって考えた」
ヨーコが目を上げて私を見た。強い目の光はそのまま私を射抜く。
「じゃあそれから先は? これからの私に出来る事って何かなって考えた」
「ヨーコ」
「私言ったよね。子供に関わる事をしたいって」
「…うん」
先日会った時の向日葵のような笑顔のヨーコを思い出した。はっ、と気付く。目の前のヨーコもあの時と同じ向日葵の笑顔だ。
「私、教師になりたいの。だからこの街から出る事にする」
向日葵はそう言って、私に決意の笑顔を向けてきた。
「…分かった。頑張って…!」
戦友の決意の笑顔を受け止め、私も熱くなった胸を抱きヨーコに向けて微笑んだ。