第6章 歓迎会
「おい。何を泣いている。」
涙で枕が濡れるのも気にすることなく、顔を突っ伏せていれば突然声が聞こえる。予期せぬ訪室者に肩が跳ね、飛び起きるとそこには紅炎の姿があった。
まさか紅炎が部屋に入ってくるとは思わず、涙で腫らした目を彼に晒してしまった。
「すみません、お見苦しい姿を。紅炎様こそ、どうされたんですか?」
「ノックをしても出なかったから、心配になって中を覗いただけだ。お前こそ、真っ暗な部屋でなぜ泣いていた。」
「それは……えーと……。」
(正直に紅炎様との婚約発表に戸惑ってしまっていたなんて言えるわけない。どうしよう。)
紅炎の問いかけに口を吃らせていると、それを察したかのように話される。
「婚約の事だろ?お前には何も話さず、勝手に皆に発表したのは悪かったと思っている。なにせ急に決まったんだ。」
「そ、そんな、紅炎様が謝ることではありません。私みたいな人間がそのように、紅炎様のお側に居れるなんて、恐れ多いです…。」
「無理はするな。悪いようにはしない。」
そう言って紅炎が桜の手を取ると、手の甲に口づけを落とした。
「……っ!」
「また明日から忙しくなる。今日はゆっくり休め。」
それだけを言い残して、紅炎は部屋から立ち去ってしまった。
一方、桜といえば、紅炎の行為に顔を真っ赤にして唖然としていた。部屋が暗くて良かったと心底思う。
そのまま再び枕へと顔を埋めると、チャーシャを抱きしめて眠りについた。