第5章 初めての朝
彼女の声とともに、剣を退けると紅覇に勝てたことが嬉しいのか頬が緩む。紅玉も凄いとパチパチと拍手をしていた。一方で紅覇はまさか負けるとは思っておらず、唖然とした表情をしていたが、すぐにニヤリと口角を上げた。
「やるじゃん、桜。それに結構大胆な事、するんだね。」
紅覇の声でハッと我に帰り、自分の格好を改めて見ると激しい動きで前の合わせが乱れており、スカートの下からは足が見えていた。さらに紅覇の上に馬乗りになった儘だ。その姿を認識するなり、頬が赤くなっていくのが自分でも分かる。急いで紅覇の上から退くと土下座に近い体制で謝る。
「申し訳ございません!紅覇様っ!無礼な事を…」
「良いよ。気にしてない。ちょっと揶揄っただけ。面白いね、桜は。」
(良かった、怒っていない…。そういえば、紅炎様はどうだったのだろうか。)
紅覇の言葉に安堵して顔を上げると、紅炎の事が気になって後ろを振り返ると、何故か不機嫌そうな顔をしていた。何か気に触ることをしたのか…。話しかけようとしたが、その前にその場から立ち去ってしまった。
(どうしよう、何故か紅炎様が不機嫌になられてしまった。私の剣の腕が壊滅的だったか、男のように闘う姿をはしたないと呆れたのか…何にせよ、最悪だ。)
不安で顔が蒼ざめていると、紅覇や紅玉も紅炎の様子が不思議だったようだ。
「紅炎お兄様、硬い表情をされてどうかされたのかしら…。」
「炎兄、どうしたんだろ。ま、炎兄って機嫌が良い時の方が珍しいから、あんまり気にしなくても良いんじゃない?」
「そ、そうですか…?後で謝りに行ったほうが…」
「大丈夫よ、 桜ちゃん。貴方は何も悪くないわ。そうだわ!私とも一戦交えてくださる?」
「わかりました。勿論です、紅玉様。」
二人の言う通り、気にしないことが一番なのかもしれない。その後、紅玉と共に剣を交えた後、二人との距離はかなり縮まり、日が暮れるまで鍛錬をしながら過ごした。気づけば、敬語を使わずとも喋れるほど打ち解けてしまった。今日1日で大きな成長である。だが、やはり頭の片隅には紅炎のことが気にかかっていた。
その時、女官からそろそろ会の支度をと呼ばれてしまい、2人とまた後で、と別れては身支度を再び整えに部屋へと戻った。