第4章 ライ
ソファで横たわり眠る一人の女性の隣で若い男が女性の頬を撫でた。
涙を流した跡があり、先程の行為の最中に彼女が泣いていたことを初めて知る。
泣かせてしまったことの罪悪感はない。
彼女は俺とする時はいつもそうなんだ、と相手もいないのに頭の中で語りかけた。
久しぶりに抱いたその肌の美しさも締りの良さも、何一つ変わらない事に安心を覚えたのも確かだ。
彼自身にはいろいろあり、様々な環境が変わってしまった。
大切な人をなくして、自分も正体を隠して生きねばならなくなった。
熱心に命を狙ってくる組織時代の仲間がいると思えば、実は彼も組織に噛み付く人間だったりと……。
その中でただ一人、この女性だけは何も変わってなどいなかった。
生意気な口の利き方も最初の方だけで、抱いてやればあの頃と同じで甘えた声で鳴いてくる。
彼女自慢のフェラを味わえなかったのは残念だったが、性に執着のある彼女に自分のソレを見せれば、きっと正体がバレるという証拠のない確信があった。
男は彼女の服を脱がせて丁寧に体を拭いてやり、抱きかかえて自身の寝室へと運んだ。
裸のままで寝かせるのは可哀想でタオルケットに体を包んでから布団をかけてやる。
「ら、い……」
困ったものだ、と眉を顰める。
まさか寝言で呼ぶほどに、求められているとは思っていなかった。
悪いが君の願いには応えられない。
謝罪の意を込めて、眠る彼女の額にキスを落とす。
おそらく彼女を抱くことは今後ない。
そうしなくてはならない。
寝室を出てケータイを取り出す。一人の少年宛てのメール文を男は作成した。
時刻は午前2時。
『作戦失敗』
送信ボタンを押して、自分の理性の弱さに苦笑をこぼす。
作戦失敗……それは彼女の誘惑に男が理性を保てなかったことを意味する。
意識を飛ばした彼女が実は勝者だったことを、彼女が知るのはまだ先のことーーー。