第2章 喫茶店
「安室くん!」
「は……?」
バーボンばりの張り付いた笑顔を振りまき、まるで彼女のように手を振ってカウンター席に駆け寄った。
私のいつもとの違いに、バーボンは理解出来ずに固まっているようだ。
安室の姿だと気が抜けて間抜けにもなるのか、なるほど……。
途中、テーブル席に座るブレザー姿の女子高生二人組に睨まれたりしたけど、バーボンのファンか何かかな?
それともバーボンは安室の姿で彼女持ちなのか。二股にキレてる線も有り得る。
「ごめんね、来ちゃった」
「あ、あの……」
「おうちで作ってくれる手料理も美味しいけど、お店で安室くんが作ってるのも食べてみたくって」
動揺するバーボンにエヘ、と笑顔を見せる。
天使みたいな幼女をイメージした笑顔の裏で、ウザイでしょ怒って?と念を込めて首をかしげた。
おお…さっきのJKたち凄いジェラシー…。
焼き殺されそうなほどの炎がバックに見えるのは、たぶん気のせいじゃない。
モテモテじゃない、バーボン。未成年だから手は出さないだろうけど。
「詩音 さん困ります。貴女、いつもそうやって僕が彼女作るの邪魔してきますよね?イタズラはほどほどに」
唇に指を立て、ウインクをする安室。
……悔しいけど昼間に見る安室は、バーボンよりも普通にいい男だった。
こんな女がしそうなポーズも、何故かキマってる。
目が腐った……?
それとも、私も組織に関わりがない時間だから気が緩んでるんだろうか?
ここで、泣きながら「安室の女」設定を貫こうと喰らいつくなんて面倒なことするわけがなく、大人しく席に着く。
「ごめんごめん。安室くんってどうしてか、からかいたくなるんだよね」
「困った人だ」
そう言って微笑む安室。
どうやら安室もバーボンと同じく簡単には怒らない人らしい。
挑発したらバーボンは怒るけど、人前で笑顔ばっかりなのは二人とも同じだ。
でもどこか、安室の方がやっぱり清々しいと思った。