第1章 月の夜
実際、こいつの実力は私の中でも高く認めている。
多くの点で有能だし、短い期間でコードネームを与えられるようになった実績は組織の中でも指折りの器量を証明していると思う。
まあ……いけ好かないポーカーフェイスと声色を除けば、私もそこまでこいつは嫌いじゃないんだ。
ただ。
こいつには反応を示さない。
ジンやライには反応した、私の本能的な部分が。
興味のある人間には、野生の勘というのか女の勘というのか、そういったセンサーが反応するんだ。
こいつは面白い、と本能が告げる。
目の前の男……バーボンも頭で考える限り、そこからそう遠くはない人間のはずなのだけれど、やっぱり幾ら時が経ってもこの男に反応することは無かった。
「……」
「ポーカーフェイス、崩れてるよ?」
バーボンがポーカーフェイスで自分の素顔を隠しているから、私はこいつに反応しないんじゃないかと時々考える。
顔は好きだし、所作の色気もある……。足りないのは、熱い本能を感じる男の部分。
そうだ、いつだって私が本能で感じ取るのは同じく相手の本能だ。
「組織から逃げだした貴女にここまで見下されるとは思いませんでしたからね」
「逃げ出したんじゃないよ。組織幹部が満場一致で私をやめさせたの」
実力も人を殺す度胸もなくて、嫌だと喚きながら組織を抜けたんだと思われているなら心外だ。
あの組織は、私を心から信頼した上で自由にしてくれたのに。
「やめさせた?組織について知っている人間を奴らが殺しもせずに、逃がす訳がないでしょう」
「あんたらNOCと一緒にしないで。私は信頼されてるの」
絶対に組織の敵にはならないと断言出来る。
私の中では組織は居場所のひとつで、彼らのすることを憎いなんて思わないから。
小さい頃から私を見ている組織の人間達もまた、それをちゃんとわかってくれてる。