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刀剣乱舞/天朱

第1章 兄を捜して







―――突然、兄が居なくなった。









確かにそこに居て、だから一緒に菓子を食べようとお茶を用意していた数分の刻の間だった。
「お兄ちゃーん、お菓子もらったから一緒に食べ…あれ?」
そこに、兄の姿が無い。思わずきょろきょろと辺りを見渡すがどこにもない。灰皿にはつい先程火を消したと思われる煙草の吸殻。だがそこに、兄の姿は無い。
「…?」
どこかに出かけてしまったのだろうか。残念に思いながら、天刃真朱は兄の帰りを待ちながら、菓子を頬張るのであった。









しかし、夜になっても兄は帰って来なかった。さらに言えば、すでに三日が経過している。昔から、兄はふらりと居なくなっていた。元々霊力の強い家系で〝神隠し〟に遭うこともしばしばあった。だが数日経てばけろっと帰って来るので、いつしかそれほど心配しなくなっていた。今回の事も、久しぶりにソレが起きたのだろうと両親はあまり気にしていなかった。しかし、真朱は違った。どこか胸騒ぎがするのだ。そもそも霊力は兄よりも自分の方が上で、本来神隠しに遭うなら自分の方なのである。それは兄が妹を〝隠して〟自分の方へ意識を向けさせ、妹を守って来た。と、妹自身は思っている。今回の事もそうかもしれない。そう思い、真朱は家の裏先にある祠へ向かった。ここは家の周囲でも一段と霊力の高い地で、一人で来ることを固く禁じられている。だが今は、それどころではなかった。真朱は意を決して祠の領域へ足を踏み入れる。途端、ぞくりとも似た感覚が真朱の身にまとわりついた。震えそうになるのをなんとか堪え、祠の前へと立つ。
「…お願いします。お兄ちゃんを、返してください」
ざわり、ざわりと肌を何かが撫でるような感覚。
「っ…大切な、お兄ちゃんなんです…いつもあたしのことを守ってくれて…」
ぎゅっと胸の前で手を握り合わせる。
「お願いします!お兄ちゃんを返してください!あたしが必要なら、あたしが行きます!」
それは軽率な行動である。神に対しての言葉は口にするだけで大きな言質となる。祠の神が兄を連れ去ったという確信が無いから尚更だ。案の定、であった。
「っ!?」
突如祠の中から眩い光が溢れだす。咄嗟に目を閉じたが最後、ふわりとした妙な感覚に包まれたかと思うと、彼女の姿はそこから消えていた。
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