第4章 Sunshine
「・・・・・・・・・」
空の色をした瞳は数秒こちらを凝視してから、何事もなかったかのように、その視線を目の前のキャンバスに戻した。
長いプラチナブロンドの髪がサラリと揺れて、こちらは彼女の横顔を見つめる形になる。
その距離およそ3メートル。
まずい。
何か言葉を発さなければ。
・・・今思い返せば、なぜあの時そんな風に思ったのだろうか。
俺は別に、アイスドール目当てにこのカフェに来たわけじゃなし。
確かに綺麗だけど、気分的にナンパしたかったわけでもなし。
別に話しかけずにその場を立ち去ったって良かったってのに。
それなのに、気づけば俺の唇は言葉を紡いでいた。
まあ全然、紡ぐと表現する程の内容じゃなかったけど。
「綺麗だな、それ」
と、自分でも呆れるくらい単純なひと言が、口をついて出た。
彼女がピクリと反応して、それからゆっくりと振り向く。
相変わらずその顔からは、喜怒哀楽のうちどの感情も読み取れはしなかったが、俺の言葉の真意を図りかねている。
そんな表情をしている気がした。
「・・・っと、その絵のこと。空の色がすげえ綺麗だと思って」
・・・何を言ってるんだ、俺は。
絵なんか全く分からねぇし、絵心も皆無だってのに。
だけど、ポロッと出た言葉に嘘偽りは無かった。
彼女が描いていたのは目の前に広がるイーストリバーと、その向こう岸のビル群。
そしてその上にある抜けるような青空だった。
俺の言葉に、彼女が少しだけ顔色を変えた気がした。
でも返事はなく、ただじっとこちらを見ていて、俺はなんだかいたたまれなくなってきた。
「あー・・・なんて言うか、ホンモノの空の色より、そっちのが綺麗に見える。かと言って偽物っぽくもないしリアルで・・・」