第2章 The last scene
「そんなに桜好きだったのか?セントラルパークの桜、見に行きゃよかったなぁ」
「え?ううん、そうじゃないよ、確かに桜は綺麗で好きだけど。私が言いたいのはね、死ぬ時は大好きな景色を見ていたいってこと」
「ああ、そういうことか。例えば?」
「例えばっていうか・・・」
が、言おうとしてやめた。
腕の中でもじもじと躊躇っている。
「なに?」
「やっぱり何でもない」
「オイ、気になるだろ?言えよ」
「・・・恥ずかしいから言えない」
はそう言って胸に顔を埋めてしまった。
「ウソだろ、気になって寝れねえじゃん」
冗談半分、本気半分で抱き締める腕に力を込めると、少しの間が空いてから恥ずかしそうな返事が返ってきた。
「・・・・・・・・・こんな風に・・・ショーターの腕の中がいい」
「!」
思わず照れてしまい、自分にまだそんな純情な心が残っていたことに驚く。
「・・・何でが先に死ぬ前提なんだよ。普通女のが長生きするだろ?それじゃなくても俺のが歳上なんだし」
恥ずかしさを隠すようにまくしたてたが、口をついて出た言葉は意外と冷静だった。
「あっ、そうか」
妙に納得した様子のに、なんだかホッとした。
「じゃあ、そういうことでよろしく」
「え、よろしくって?」
「俺が死ぬ時はの腕の中で。まあそれまではずっとハグして寝てやるよ。だから安心して寝ろよ」
「!!!うん・・・」
今度はが照れたのか、静かになった。
それからまた無意識なのか、は俺の肩の傷痕をそっとなぞってから眠りに落ちた。
寝顔を見ながら思う。
守らなければならないものは沢山ある。
でも、一生をかけてでも守りたいと思うのはだけだ。
慌ただしく駆け抜けるような毎日が過ぎ去って、いつか穏やかな日々を迎えて・・・そして最後の時に、の顔をこの目に焼き付けてから逝けたら最高だろうな。
その時は優しく笑ってくれるだろうか。
・・・きっと、笑ってくれる。
一緒に積み重ねた日々が、ふたりを笑顔にしてくれる。
それ以上に幸せなことはないのかも知れない。
そんなことを思った夜更け。
そして、と過ごした最後の春だった。
-END-