第13章 13
アーサーの部屋を後にしたものの…
「っ…」
私の頭はぐちゃぐちゃで、乱れた衣服と髪を気にする余裕もなく、自室目指してひたすらに廊下を駆けている。
触れられて、幸せを感じてしまった。彼の体温をもっと求めてしまいたかった。
早く、早く…とにかく、人の居ないところに…
夢中で駆けて、ようやく自室のトビラが見えてきた。
早く中にっ…!
ドアノブに手を掛けた時、背後から声を掛けられる。
「アナスタシア?今日はアーサーの所に行くんじゃ無いのか?」
この声は、テオさん。
今この姿を見られるのはマズイ。
「アーサーは疲れているみたいだったから、別の日に変更したんです。」
振り返ることなく答えた私を不審に思ったのか…
「どうした?お前…何か様子がおかしくないか?」
肩を掴まれ、振り向かされる。
「やっ…!」
小さく抵抗するも、テオさんの瞳に乱れた私の姿を捉えられる。
「おい、それ…どうした?」
テオさんの視線が、私の乱れた胸元に注がれているのを感じる。
「な、なんでもないです…えっと、む、虫に刺されて…」
口をついて出たのは、あまりにわかりやすい嘘だった。
「…そんな訳が無いだろ。誰にやられた?アーサーか?」
当然そんな嘘が通じる筈は無く、あっさりと見破られ確信をついた質問をされる。
「……。」
答えることができず、黙り込む。
「アーサーに無理矢理犯されたか?誰かに言えばもっと酷いことをする、などと脅されているのか。」
それは違うっ…!
「いいえ!アーサーはそんなこと言いません。こうなったのだって、私が…!」
思わず反論すると、テオが やっぱりな。 という表情をする。
「やはりアーサーか。それに…咬まれたのか。」
「っ!」
墓穴を掘ってしまった。
「このことは…他の人には言わないでくださいっ…」
アーサーが不当な扱いを受けるのは避けたかった。
「ああ。お前がそう言うなら誰にも言わんさ。」
良かった…
私が安堵していると、テオさんが口を開く。
「呼び止めて悪かったな。ここに居たら他のやつに見られる可能性がある。とりあえず首まで隠れる服に着替えて来い。
あとは…その血も流さないといけないな。着替えたら風呂に行くぞ。」