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落花

第13章 13




「アナスタシア…」

彼の瞳は苦しげに揺れている。

私は赤い顔を涙で濡らしながら荒い呼吸を繰り返す。

話す余裕はまだ無かった。

「アナスタシア…俺、ごめん…」

そんな私の姿を見て、自分がしたことに気が付いたアーサーは
顔を歪めながら謝罪の言葉を口にする。


「ん…。だいじょぶ…少し、びっくりしたけど…」

私は生理的な涙が浮かんだ瞳で微笑む。

「っ…、本当にごめん」

アーサーは私が今まで見たことがないほどの真剣な表情で再び謝る。


「気にしなくてもいいの。ごめんね、私が勝手に部屋に入ったりしたから…」

私は乱れた服を整える。

胸元には付けられたばかりの赤い痕がいくつも残っている。
そして首筋には一筋血が伝っていた。

「違う、俺は…キミのこと…」

続きを言われてしまうと、気持ちに歯止めが効かなくなる。
アーサーの声を遮るように呟く。

「いいの!アーサーは人間の彼女と私を間違えたのよね?ねぇ、そうでしょ…」

「ちがっ…!」

「違わないっ!事故なんだよね…?そう言って…」

懇願するように俯く私。

お願いだから、私のことを特別にしないで。
そうじゃないと、私は…

「っ…アナスタシア…」

その声で、私を呼ばないで。

止められない。貴方に対する気持ちが崩れて流れてしまう。

いつからこんなに愛しく思ってしまったんだろう。

あの怖い夜、私を助けてくれてから…?

守ると言ってくれてから…?

いいえ、きっと…もっと前から。

貴方を避けていた数ヶ月間は、むしろ貴方へ対する気持ちを強くしただけだった。

「ごめんねアーサー、ダメなの…」

精一杯の優しさで拒絶して。

私を愛さないで。私のこと、嫌いに…

嫌いには…なってほしくない。相反する気持ちが抑えきれない。


そのまま私はアーサーの部屋を後にした。




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