第11章 11
「変なこと言ってごめんね、ちょっと寝惚けていたみたい。」
笑顔はこれで大丈夫。
ぎこちない笑顔を作ってアーサーを見つめる。綺麗な青い瞳に私の下手くそな、けれど精一杯の笑顔が写っていた。
「…キミを抱きしめてもいいの?」
不意にアーサーが口を開く。
「ううん…!寝ぼけてただけ!抱き締めてくれなくていいの。我ながらおかしなことを言ってるなって思っていたから…それに寝惚けていて恥ずかしいからさっきのは忘れて!」
ダメだ。また泣いてしまう。
ここで泣いてはダメ。必死に堪えるけど、視界が滲む。
私は慌てて窓の外の景色を眺めるふりをする。
外は暗くて、景色なんて見えなかった。
「もう酷い雨は止んだんだね…!」
最後の方は声が震えてしまった。
そのままアーサーに視線を向けないように、声が震えないように
「もう、わたし大丈夫だよ。一人でも平気だからっ…」
これ以上は言えない。肩も震えている。涙に気付かないで。
すると、私の震える身体にアーサーの腕が回された。
「ア、アーサー?」
「ねぇ、俺にもっと甘えて。一人で抱え込まないで…」
そのままアーサーの方に顔を向けさせられる。
ダメ、今は涙が…
「やっ…アーサー、わたし外が見たいっ…」
「今は俺を見て。キミの弱いところを見せて」
その言葉に、何か糸がプツリと切れて、感情が堰を切ったように溢れ出す。
「アーサーわたしっ…怖かったの…!
傷も本当はずっと痛くて…全然治らないの、殴られたのだって初めてだった。
でもね…それよりも…お屋敷に戻れなくて、貴方に会えなくなることが…本当は一番怖かったの…」
私は子供のように泣きじゃくる。
そんな私をきつく抱き締めるアーサー。
「怖かったよね。もう大丈夫。ここは安全だよ。それに俺がいつだってキミを守ってあげる。もう二度と怖い目には遭わせないって誓う。だから安心して…」
アーサーの優しい声。
「アーサー…」
縋るような声で名前を呼ぶ。
私はまるで子供みたいだ。