第11章 11
堪えきれず、この人に甘えてしまいたいと思った。
アーサーに甘えたい。
抱きしめて欲しい。こんなのいけないことなのに…
切なくて泣きだしそうな心地になる。
私は彼に受け止めて欲しいんだわ。きっと、この痛みも…昨夜の恐怖も…
「アーサー…」
思わず名前を呼ぶと、情けないほど弱々しい声が出た。泣いているような、そんな声が出た。
「どーしたの…?怖い夢でも見た?
大丈夫、ここにはもう怖いことは何も無いよ。俺がキミのこと守ってあげるから。」
そんなに優しいことを、そんなに優しい声で言わないで。
我慢していたものがこぼれてしまいそうになる。
「なんでもない、よ…でもね、アーサーは嫌がるかも知れないけど…今だけ、私のこと抱き締めてっ…」
貴方に甘えたくなってしまった。
言った途端恥ずかしくなる。浅ましいと思われたかもしれない。言わなければ良かった。でももう撤回出来なくなった。
ただ温もりを感じたいだけだった。それにちょうどいい理由を付けた。浅ましくて…なんだか自分が汚いもののように思えてしまって…
アーサーの返答はない。…ダメなことを言ってしまった
「今のは…違うの」
撤回しようと口をついて出た言葉が余計に浅ましさを強調してしまったような気がした。
「…変なことを言ってごめんなさい。本気だと思わないで…」
もう頭がぐちゃぐちゃになっていた。感情が保てない。
取り返しのつかないことをしてしまった。感情の蓋が壊れる。
私は泣いてしまった。
泣くのは一番悪手なのに。
「なんで泣いてるんだろ…ちょっと混乱して、頭がぐちゃぐちゃになってるの、本当は大丈夫。何でもないから」
アーサーに見つめられるのが嫌だった。浅ましい心まで見破られそうで、私は俯きひたすら溢れる涙を拭っていた。
「付いていてくれて、助けてくれてありがとう。もう痛みは無いから、アーサーもちゃんと休んで…」
殴られた頰も、お腹も…縛られた手足に残る傷も
急にひどく痛み出した気がする。
けれど私は笑顔を作る。