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落花

第11章 11




懐かしい人に会った気がする。

懐かしいあの人と手を繋ぐ夢を見た。

なんだかとても怖いところに居た気がする。

けれど懐かしくて温かい感触が怖いところから助けてくれた。


夢なのに、変なの。まだ手が温かい体温に握られている気がする。




そっと目を開く。

身体のあちこちが痛む



側には温かい体温、私を助けてくれた体温…

握られている手に視線を向ける


ふわふわな髪…

私の手は大きな手に包まれていた。


「アーサー…」

私の手を握りしめたまま、私のベッドに頭だけ乗せて眠るアーサー。


ベッドの側のサイドテーブルには、水を張ったボウルとタオルが置いてある。


ずっと付いててくれたんだ…


あの会場にいる時、もうここには帰ってこられないと思っていた。

アーサーに会えなくなると思った。



「アーサー、私…貴方にもう会えないと思ったの…」


眠ったままのアーサーのふわふわな髪に触れる。


「なによりも、貴方に会えなくなるのが怖かったの。
どうしてだろうね…」


アーサーの髪に触れている私の手首には包帯が巻かれ丁寧に手当てされている。


きっとこれもアーサーがやってくれたんだ…


「アーサーありがとう…」


目を閉じて眠る彼の頰に触れてみる。



無防備な寝顔を‘かわいい’なんて思ってしまう。


わたしなんだか変かも。


起きる気配のないアーサー。よっぽど疲れていたんだろうな…



起こさないように注意しながら彼の頬をつんつんしてみる。


「んー…」

くすぐったそうにするアーサー。


その姿を見た瞬間、どうしようもなく愛おしいような、苦しいような感情が湧き上がる。



「アーサー、わたし…」

自然と口が動いて何か言いかける。けれどそれをすんでのところで飲み込み口をつぐむ。


私、何を言おうとした…?



ちょうどその時、アーサーの目が薄く開く。


あ…


ぼんやりしてるアーサーと目が合う。



「アナスタシア…?」

寝起きの声でアーサーが私の名前を呼ぶ。


それだけで、もうどうしようもない程の柔らかな感情が胸に溢れる。


私が黙ったままでいると


「傷は痛む…?手当はしたけど、完治には時間がかかると思う…」


アーサーが苦しそうな顔で呟く。


まるで私の傷の痛みが移ったみたい





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