第10章 10
気を失ったアナスタシアを抱きかかえたまま馬車に乗り、お屋敷へと帰ってくる。
伯爵はあの闇オークションの会場に残って主催者達を警察に引き渡すと言っていた。
ナポレオンとジャンヌも後始末をするため伯爵と共に会場に残るそうだ。
そして、彼女を一人で帰らせようとしたテオも責任を感じたのか
あの場に残って始末をつける、と言っていた。
お屋敷に着くと、残っていた住人が心配そうな顔で出迎えてくれた。
セバスチャン「アーサーさん、アナスタシアさんは無事ですか…?」
「ん…とりあえず今は気を失っているだけだけど…」
アナスタシアの頰が痛々しく腫れている。
セバスチャン「乱暴な方々ですね。無抵抗の女性を殴るなんて…あとで冷やすものを持っていきます。あとは傷の手当ても…」
「ありがとうセバス。傷の手当ては俺に任せて。これでも元医者だから…それよりもアナスタシアの身体が冷えてるから、何か温めるものを持ってきてくれる…?」
セバスチャン「かしこまりました。着ている服も着替えさせなくてはいけませんね。濡れた服のままでは風邪を引いてしまいます。」
「そうだね、それもお願い。」
セバスチャンにそう告げて俺は彼女を部屋へと運ぶ。
腕の中で眠る彼女は時折苦しげな表情を浮かべている。
「アナスタシア、傷…痛いよね。」
彼女の頰に軽く触れる。かなり強く殴られたようで、頰が熱を持って腫れている。
「もう大丈夫だから…安心して。」
彼女をベッドに下ろす。
「……こわ、い…助け……ーーー、」
魘されているのか、彼女が苦しげに呟いている。
「大丈夫だよ。もう怖いものなんて無いから。ね…?」
安心させるように彼女の小さな手を握り締める。
ふと、彼女の目が薄く開いて俺をぼんやりと見つめていることに気がつく。
「アナスタシア?目、覚めたの…?」
俺の顔を見た彼女は微かに微笑む。
「あな…た…ここに、居て…昔みたいに……」
それだけ呟くと、また眠りに落ちる。
昔みたいに…
きっと彼女は亡くなった恋人と俺を見間違えたんだろう。
「うん…ここに居るから安心してお休み。アナ…」
…俺はアーサーだよ、アナスタシア。