第2章 2
「一緒に住んでたっていう女の子が何か知ってるとは思うケドー…
森の中かー。事件が起きたのは一昨日の夜だよね?森の中や周辺に隠れられそうな場所はある?」
「さぁな…その森だって人が滅多に入らない場所らしいからな。
住人が森の中で女を見たというのもたまたま野犬を狩りに行っていたからなんだと。」
「野犬が出るの?」
「らしいな。もし女が森に隠れていたとしても野犬に襲われて手遅れなんじゃないか。」
「そう…でも狩に出ている人が居るってことは小屋くらいはあるはずだよ。その狩人さんに聞いてみない?運が良ければ手かがりが見つかるかも。」
「ああ。わかった。」
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ガサガサッ
はぁ、はぁ…
「お腹を空かせた野犬が…」
彼の灰を埋めようと思っていたのに…
小瓶に入れた灰色の砂を握る。
「野犬に襲われるのは怖くない…でも、あの人の灰は私が守らなきゃいけない。」
走り続けて息が上がる。
かなりの時間追いかけっこをしている。
野犬も久しぶりの食料を逃す気は無さそう。
「あっ!」
木の根に躓きよろけてしまう。
「彼の灰がっ…!」
大切な灰を手放してしまった。
地面が坂になっており、灰が野犬の足元へ転がってしまう。
獲物を追うことに必死な野犬は今にも小瓶を踏みつけそうだ。
「だ、だめ!それを踏まないでっ!!」
小瓶を守るように腕を伸ばす。
「っう…!」
肩から噛み付かれた。痛い。深く牙を突き刺された皮膚から血が流れる。
でも、小瓶は無事。
「良かった…!」
小瓶を胸に抱えて守る。
右肩に食らいつく野犬は離してくれそうにない。
ガリガリに痩せた野犬。後ろからふた回りほど小さな野犬が走ってくるのが見える。
「そう…あなたはお母さん?子供がいるの…ね。」
二の腕の肉を食い千切られる痛みが走る。
「腕なら、いいよ…こっちだけに、してね…じゃないと…彼のことを、埋められなくなる…から…」
母親と思われる野犬に声をかける。
「このくらいでは死なないから、お食べ…」
生に執着する野犬が愛おしく見える。
野犬「くぅーん…」
不意に野犬の動きが止まる。
「あなた、もういいの…?
優しい、子…」
血は流れ続けている。痛みもある。
野犬はそのまま去っていった。