第2章 2
ひそひそ…
「失踪?まだお若いのにねぇ…」
「昔から変わり者だったわね。
でもある時から急に女と住み始めたわね。」
「その女が関わっているのではなくて?」
ひそひそ…ひそひそ……
パリの郊外にひっそりと佇むレンガ作りの家。
ここの住人だった若い男が忽然と姿を消した。
男は女と2人で暮らして居たようだ。
しかしその事件の後から女の姿も見ることはなくなった。
「ふーん。それで…テオが俺をここに連れてきたのはなんで?」
「お前が得意そうだと思ったからな。小説の執筆も出来ていないようだし…」
「そう…心配してくれたんだね?やーさしー。」
「ちっ…そんなんじゃねぇよ。俺も駄犬の件があってから暫くは仕事に身が入らなかったからな。屋敷の奴らもそうだっただろ。」
「もー。テオってばまたそんな呼び方する。
あの子が居なくなってからどれくらい経ったかなー。俺は今でもあの子の部屋に行くと…あの子がそこで笑っているような気がするんだ。」
「悪かったよ…」
「んー?テオが謝るなんてめずらしー。
執筆は…まだ無理かな。やる気が起きない。どうせなら伯爵に頼んであの子をヴァンパイアにして貰えば良かったなー。」
「それは…あいつが拒んだんだろ。」
「そーだね。こんなことを言ったらあの子が悲しむのはわかってる。でも…やっぱり寂しいな。覚悟はしていたつもりだったんだけど。」
「…帰るか。」
「んー?どうして?」
「いや…お前の気持ちは理解してやれるつもりだったが…
あいつを忘れろって言ってるみたいだろ…悪かった。」
「やだなーテオってば。俺もわかってるんだ。もう二度とあの子に会えないことも…わかってるんだ。」
「そうか…。」
「でも帰らないよー」
「なんだと?」
「この事件…俺にはさっぱりわからないから。
外にここの住人の着ていた服と…服の周りに大量の灰。手掛かりがそれだけなんだもん。」
「灰があったってことは火で焼いたんじゃねぇのか。」
「わーお、物騒なこと言うねー。仮に火で燃やされたとしても、服には煤一つ付いてなかったんだよ?後から置いたにしても、少しは汚れるはずでしょー?」
「まあそうだな…住人の話によると女と住んでたみたいだが。
その女の姿も事件後には目撃されてないらしいな。事件の夜に森で女を見たって話はあるが」