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落花

第10章 10




雨は止みそうに無い。

「せめて勢いが収まってくれたらなぁ…この強さじゃ傘を差しても絵が濡れちゃう…」


事実、私の着ているワンピースも激しい雨に降られ冷たく濡れていた。絵だけはなんとか無事だけど…


「寒い…」


足元から髪まで水を吸って重く、私の体温を奪う。


日が沈みきり、辺りはますます暗く
路地裏の陰惨な雰囲気も相まって空気まで重く感じる。


「どうしよう…このお店に入ってせめて服だけでも乾かさせて貰おうかな…」


パリの街に一人きりになるのは初めてで、心細くて人に会いたくなる。


私が屋根を借りている建物には地下へと続く階段があるようだ。

何やら看板のようなものも見えるし、酒場か何かだろうと思いその階段を下ることにした。


薄暗い階段を下りて扉の前に着く。

看板には文字。


「なんだろう……フランス語じゃない…読めない…」


扉に耳を当てると、中からは賑やかな声が聞こえる。

「酒場、かな…?」


一人で心細かった私は、ついにその扉を開けて中に入ってしまった。




ガチャリ…

扉を開けると、薄暗いホールのような場所だった。

賑やかな声はもっと奥から聞こえてくる。


「なにこれ…変なの。ダンスでもお披露目するのかしら…」


ホールの中は四方を座席のようなもので囲まれ、真ん中には周りより一段高いステージのような場所がある。


コツコツコツ、と私の履いているヒールの音だけが薄暗いホールに響く。


ステージの下にまた地下へと続く階段がある。

賑やかな声はこの先から聞こえる。


「変わった作りの酒場だなぁ…お酒を飲みながらダンスを見たりするのかしら?」


ステージから更に地下へと下り、奥の扉を開く。


「ごめんくださーい…」


重い扉を開くと、賑やかな声が一段と大きくなり、間違えなくこの先に酒場があると思っていた。


しかし、中にあるのは無数の檻 そして

賑やかだと思っていた音は人の呻き声や泣き声、動物の声だった。





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