第10章 10
思わぬ報酬に嬉しさが込み上げる。
私は渡されたキャンバスバッグを大切に胸に抱く。
「大切にします、とっても嬉しいです!」
テオ「ああ、それを眺めて目を養え。」
テオさんも嬉しそうに微笑んでいた。
…
ちょうど大通りに差し掛かった時
テオ「悪いな、俺はもう少し寄りたいところがある。お前は先に帰れ。ここからなら馬車もすぐに見つかるだろう。」
テオさんは他にも寄りたいところがあるようで、私に先に帰るよう促す。
「そうなんですか?わかりました。テオさん今日はありがとうございました、お屋敷に帰ったら早速お部屋に絵を飾ります!」
テオ「ああ、この辺は平気だろうが裏通りへは行くなよ。すぐに馬車に乗って帰れ。雨も降り出しそうだしな。」
言われて空を見上げると、陽が傾き出し前方からは黒い雲が近付いて来ているのが見える。
本当に雨になりそう…
「はい、真っ直ぐ帰ります。テオさんもお気を付けて」
テオ「ああ、じゃあな。」
テオさんはそのまま歩き去って行く。
1人になった私は、馬車を捕まえるため大通りを進む。
ふと、頰に冷たい雫が触れる
「雨、降って来ちゃった…」
テオさんの言う通り傘を持ってきてよかった。
私はキャンバスバッグを守りながら傘を差し馬車を探す。
雨はすぐに勢いを増して、履いているパンプスを冷たく濡らす。
「急がなきゃっ…!」
馬車を探して大通りを進む。
しかし、馬車を求める人達で通りはごった返していた。
「すごい行列ね…みんな傘がない人達みたい…」
その間にも雨は強さを増す。
「絵が濡れちゃう…どこか室内へ…」
横殴りの豪雨から絵を守るように抱きかかえてはいるが、抱えている腕部分の布にも雨が染みて私の身体を冷やす。
傘の意味がほとんどないほど激しい雨が降りしきる。
「とにかく、屋根のあるところに行こうっ!」
…
屋根を求めて夢中で駆け、気が付いた時には少し裏路地へ入り込んでしまっていた。
ボロボロで、なんとか雨だけは凌げそうな建物に入る。
「どうしよう…裏路地は行くなって言われたのに…」
辺りを見回して見るが、この雨のせいで人通りがほとんどない。
「人が居ないし、返って安全か…」
なんて、私は楽観的に考えていた。