第5章 5
「んー?聞かないよ。俺そんなに不躾な奴じゃナイしー。」
「でも…不審に思ったり、しないですか?」
おずおずと尋ねてみる。
「不審に思うのって、それがどういうモノなのかわからない時でしょ?
俺はその小瓶がどういうモノなのかわかってる。伯爵が何か言ったワケじゃないよー?」
「どうして…?」
そう聞くと、アーサーさんは んー?と言いながら答えてくれる。
「それは俺がミステリ作家だから、かなー。こう見えて推理は得意なんだ。キミの正体もわかってるよ。」
「えっ…?」
アーサーさんは私がサキュバスだと知っている。伯爵が「時期を見て皆に伝える。」と言っていたから、まだ屋敷の住人は知らないはずなのに。
「驚いた?あとは…その灰のこともわかるよ。キミは知られたくないかもしれないケド…」
アーサーさんが言いづらそうに口を開く。
「そ…ですか。サキュバスなのに人間を愛したなんて、馬鹿みたいですよね…」
私は自嘲気味に呟く。
「知ってます?サキュバスに憑かれた人間は、命を削られる代わりに才能を開花させるんですよ。命と交換なんです。でも…この人は才能を求めなかった。ただ、私を愛してくれたのです。
私は何もしてあげられなかったのに…」
私は彼を胸に抱きながら涙を堪える。
アーサーさんは黙って聞いている。
「馬鹿な人…私のことなんて愛さなければ命を失うことも無かったのに…私が…彼を愛さなければっ…!」
今度は堪えられ無かった。
愛してくれて嬉しかった。初めて温かい感情を知ったのに。
本当は、永遠に一緒に居たかった。彼が消えるときは私も一緒が良かった。
「っ、う…会い…たい…っ」
涙と共に本心が溢れる。
不意に、温かい温度に包まれた。
「っ…?アーサー、さ…」
驚いて声を上げた。アーサーさんが私を抱き締めている。
「俺も、キミと同じ…だから。」
私を抱き締めたままのアーサーさんが耳元で呟く。
アーサーさんの声も、私と同じように震えていた。
泣いてる、の…?
肩に温かい雫を感じる。
これは…きっとアーサーさんの涙……
「俺も、大切な人を失ったんだ。本当に信じられない程愛していた子が、居たの。でも…その子は人間で…」
「…!」
伯爵が言っていた、人間を愛したヴァンパイアは……
アーサーさん、だった。