第5章 5
アーサーさんが教えてくれた。
随分と前に、このお屋敷に人間の女の子が迷い込んだことを。
その子は不思議な扉を抜けて未来からこのお屋敷にやって来たそうだ。
当時不特定多数の女の子と関係を持っていたアーサーさんは、その女の子のこともただ‘面白そうだから‘という理由だけで近付いた。
その子は1ヶ月も経てば元の世界に戻るはずだった。
だからせめてその1ヶ月間は一緒に過ごしてみようと軽い気持ちでちょっかいをかけていた。
しかし、一緒に過ごしているうちに自分がどうしようもなく彼女に惹かれていると気が付いた。
自覚した頃にはもう戻れないほど大切な存在になっていた。
ヴァンパアと人間の恋…
必ず最後には別れが訪れることもわかっていた。
けれど止められなかった。
彼女が愛しくて堪らなかった。
そして、その彼女も俺を愛してくれた。
元の世界を手放してまで俺のことを選んでくれた。
ただ、時の流れは残酷で
人間である彼女と永遠の命を持つ俺とではどうしたって生きる時間が違う。
悲しい別れを避けられなかった。
そして…最期の瞬間まで、彼女は笑っていた。
彼女が居なくなってから俺の生活は終わりのない暗闇の中を進んでいるようだった。
ヴァンパイアにとって命であるルージュも受け付けないほどに。
このまま消えてしまえれば…俺も、彼女の元へ…
そんなことばかり考えて日々を送っていると、ある時親友のテオに外へ誘われた。乗り気では無かったけれど、半ば強引に連れ出され…
そこで、ある事件に関わることになった。
その事件というのが、今回のアナスタシアと出会うきっかけとなった事件だ。
「それで、森の中で血塗れのキミと出会ったってワケ。」
アーサーさんが静かに呟く。
なんて悲しい話なんだろう。
大切な人を失う悲しみは私が一番よくわかる。
まさに終わりのない暗闇に放り出されたよう。
アーサーさんが言った、 君と同じだから という言葉。その言葉が重くのしかかる。
私達は、同じ…?
同じでは、無い。
アーサーさんと過ごすことで少女が命を落とした訳ではないから。
でもきっと、もう会えない誰かを想う気持ちは同じはず。
私は少しだけ、彼を愛した自分を赦すことができた。