第17章 落花
数百台のタクシーに彼女のことを聞く。
運転手1「さぁ?俺は乗せてないな。」
運転手2「一日何人乗せると思っているんだ?一人一人のことなんて覚えているわけが無いだろう?」
聞き込みは行き詰まっていた。
何せ1日に何百人もの人が訪れるパリ。
当然タクシーを利用する人間も多数いる。
テオ「おい、何か情報はあったか?」
疲れた顔のテオが声をかけてくる。
手分けして聞き込んでいたテオの表情で向こうでも有力な話が聞けていないことがわかった。
「んーん、サッパリ…せっかく手が届きそうなのに…」
2人して項垂れていると、目の前に一台のタクシーが止まる。
その車体には木の葉が付いていて、パリの市内では無いところを走って来たのが見て取れる。
まさか…!
「待って!」
慌ててそのタクシーを呼び止めると、中から運転手が顔を覗かせる。
運転手「悪いね兄ちゃん達。ちょっと遠くまでのお客さんが居てな…燃料を補給しなきゃならねぇんだ。他の車を当たってくれるかい?」
そのまま去っていこうとするタクシーの扉を無理矢理こじ開け乗り込む。
運転手「ちょっと!困るよ〜燃料が無いって言っただろ?」
「話を聞かせてくれませんか?そのお客はどんな人でしたか?行き先は何処に…」
運転手「なんだ?兄さん達は探偵か何かか?そうだなぁ、お客さんはえらく綺麗な若いお姉ちゃんだったよ。この辺では珍しい瞳の色をしていて…」
テオ「それは本当か!?もっと詳しく聞かせろ!」
テオが声を荒げる。
「テオ、静かに!運転手さん、続けて…」
運転手「威勢の良い探偵さんだなぁ…あぁ、続きね…
この辺のお客さんは近場まで乗る人が大半なんだよ。でもそのお客さんは、湖まで。と言って…この辺で湖があるところと言えば、森の中のあそこしかないと思ってな。
そこまで送り届けて来たんだが、あの辺は人通りも少ないし…帰りはどうするか聞いて、待っていてやろうかと言ったんだが…」
「湖…」
それはきっと俺が彼女の手を引いたあの湖のことだ。
テオ「そしたら、何て言ったんだ…?」
テオが運転手に続きを話すように促す。
運転手「帰りは必要無いと言っていたな。でもどうやって帰るんだと聞いたら、悲しそうな顔でそのまま黙り込んじまった。」
「待って…それで、彼女を置いてきたの…?」