第17章 落花
タクシーから降りて、少し歩く
辺りは暗くなり、空には月が浮かぶ。
そして…2世紀前と変わらず透き通った水をたたえた湖に辿り着いた。
「ここは…静かだなぁ。」
街の喧騒から離れて静かな湖面と月を見つめる。
「貴方が居なくなった夜と同じ…綺麗な月だね。」
胸元の小瓶を撫でる。
「2世紀以上もの間埋めてあげられなくてごめんなさい。
貴方のことを忘れるのが怖かった。
手放してしまうと、貴方では無い人のことを愛してしまいそうだったの。でも、あんまり意味が無かったなぁ…」
色褪せた灰。貴方が居ても私はアーサーを愛してしまった。
「でもね、もうこれで終わりにするの。私はここで、貴方の灰と彼への思いを抱えたまま消えるの。」
月を見上げる。
「ありがとう、貴方…さようなら。」
湖の側の月の光が降り注ぐ場所に彼を埋める。
そして…
「私も、眠くなって来ちゃった…」
死という概念がないのはわかっていた。けれど気がついたことがある。私の命は誰かの命を奪った上に成り立っている。
もう随分の間命を食べていない。きっと…このまま私は消える。
身体の先が冷たい。
「…さようなら、私が愛した貴方。
そして二番目の貴方…」
月の光に包まれる。消える、って…怖くないのね……
幸せだった日々が思い出される。こんなに優しい気持ちになるのは初めてで、自然と笑みが浮かぶ。
瞼が重い。もう、眠ろう。
願わくば、最後の夢に…貴方が出てきてくれますように…